必読!おすすめビジネス書のご紹介

ビジネス書、何を読むべきか悩みますよね。ランキング上位を買ってみても、案外学びにならなかったり。そんな思いから、おすすめの本の概要を書くことにしました。外資系戦略コンサルなどで勤務した私が、おすすめの本をご紹介します!参考になれば幸いです!

知財戦略のススメ(鮫島正洋)

残念ながら新品は無いのですが、知財戦略を考える上で第一歩目に把握しておきたい、大上段を理解し、考えられる名著です。

 

こちらも絶版なので、図書館などで探してみてください...

 

知財戦略のススメ

 

内容と抜粋

特許から見る、ビジネス潮流の変化

太陽光パネルの特許を分析したところ、下記のようになった。

  シャープ:日本国内外で特許 5000 件保有=シェア 3%

  中国企業:中国国内外で特許 10 件程度保有=シェア 7%

この情報から導かれる論理的な結論はただ一つ、「特許の保有件数とシェアは無関係である」「シャープが保有する5000件の特許はシェアの維持確保には役に立っていない」ということである。これは今まで常識とされてきた知財の効能、つまり「特許取得=シェア獲得」を完全に否定する事例である。

 

ここに、特許の内容、および権利切れ特許の内容のみで製造できるパネル技術レベルとコスト、という観点を入れて分析をしてみた。

具体的には、縦軸に製品スペック(技術的高度性)、横軸に製品の発売以降の経過年数をとっている。

ただし、縦軸は単なる製品スペック(技術的高度性)ではなくて、「満了特許のみを用いて製造できる」製品スペック(技術的高度性)という新しい視点を導入した。

特許の保護期間は有限であり、出願されてから20年が経過すると例外なく消滅する。時間の経過によって特許が消滅することを「特許が満了する」という。すなわち、「満了特許」とは、既に有効期間が経過して、権利が消滅してしまった特許のことを指す。そして、「満了特許にかかる技術」とは、誰でも使える技術、つまり自由技術であることを意味する。

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満了特許を用いて製造できる技術

 

 

詳細を見ていくと、発売後最初の 20 年間はシャープの基本特許、準基本特許が生きている。このため、コンペティター(競合企業)は太陽光パネルを製造販売できない。

しかし、1980年を超えた辺りから状況が変わり始める。シャープの基本特許、準基本特許が有効期間の 20年を経過し、満了の時期を迎えるからである(図1-2のA点)。

もっともこれらの特許が満了しても、コンペティターは高性能の太陽光パネルを製造できない。シャープの改良特許が生きているからだ。

 

しかし、1985 年頃になると、さらに状況が変わり始める。1965 年頃から出願されている改良特許さえも満了し、徐々に消滅し始めるからだ。コンペティターからすれば、改良特許の満了を待って、それら改良特許に関連した技術を使って太陽光パネルを製造できるようになる。基本特許と準基本特許だけではなく、改良特許まで使えるようになるため、満了した特許技術を使ってコンペティターが製造できる製品のスペック(技術的高度性)は、徐々に高まっていく。

 

この傾向は、1986年、87年と、時間が経過するにつれて顕著になる。改良特許が、一つまた一つと満了して、自由に使える技術がどんどん増えていくからだ。そして、ある時、先行者にとって恐ろしい瞬間が訪れる。満了特許だけを使って製造できる製品のスペックが、世の中が要求するスペックに達してしまうのだ。この現象を「技術のコモディティ化」と呼ぶ (図 1-2のB時点)。

 

図1-2では、コモディティ化が生じたB点で、満了特許だけを使って、世の中が要求するスペック「変換効率 (太陽光を電気に変換する効率) = 15%」を上回る太陽光パネルを製造可能になると定義している。なぜこれが先行者にとって恐ろしい瞬間なのか。それは、特許で権利が守られていない技術だけで、市場が要求するスペックの製品が製造できてしまうからである。つまり、特許を持っていない者が、先行者の特許を気にせず市場参入できるようになったことを意味する。

その結果、著しい数の企業が市場に参入し、先行者のシェアは劇的に低下する。

 

 

 

コモディティ化する時期を予測する

筆者は、製品のコモディティ化が特許状況から予測できるのではないか、と考えている。

例えば、ネオジム磁石は、必須特許の出願が90年代前半でほぼ終了している。すると、2015年の現時点では、コモディティ化するかしないかの境目の時期にあるといえる。筆者は、多くの技術分野に関する莫

大な特許を見てきた中で、技術のコモディティ化が起こる時期について以下のような経験則を得た。

[(上市時期と出願件数ピーク時点)の中間時点] + 20年

具体的に見てみると、ネオジム磁石に関する特許は、70年代前半から毎年数件ずつ出願されている(図)。

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ネオジム磁石特許状況

こうした初期の特許は、基本的開発段階で出願されたネオジム磁石の基本的着想をカバーする特許であると思われ、必須特許であると考えてよい。

実用的なネオジム磁石の基本発明は 1982年頃、当時住友特殊金属に勤務していた佐川眞人氏が開発し、同社を出願人として特許が成立した。この辺りが、量産的開発段階が始まった時期になるだろう。

その後、1984年から出願が飛躍的に増え始め、2002年にピークを迎えた後、出願数は減少し始めた。筆者がこれらの特許公報の内容を調査した結果では、1990年代前半までに出願された技術にかかる特許は、量産的開発段階の特許であり、その中には市場に出回っている製品に必ず使われ、かつ回避不可能な必須特許がある。

 

しかし、それ以降は、付加的機能開発段階に突入したと思われ、必須特許といえる技術はほとんどなくなった。

つまり、ネオジム磁石の製品が発売された時期である1983年から特許件数がピークに達する 2005年までの期間の中間点である 1994年までは、必須特許を取得する余地があったことになる。それ以降 20 年間は必須特許の権利が存続しているため、特許による市場支配ができた。

この前提で考えると、必須特許の出願時期である1994年に特許の存続期間(20年)を加えた2014年頃、ネオジム磁石に関する技術はコモディティ化したものとみられる。

 

実際、このような推測について業界関係者に確認したところ、当業界では数年前から「2014年問題」と呼ばれ意識されていたとのことであった。

 

 

 

 

パテント・トロールによる訴訟の規模が増加

米国市場における NPE (Non-Practicing Entity:特許不実施主体)からの特許侵害訴訟にかかる費用の総額は年々増加しており、2013年には全体で125 億米ドルに達している。中でも和解金および損害賠償金にかかる費用の増加が顕著である。

企業規模別に見てみると、売り上げが100 億米ドルを超える企業は、それ以下の企業よりも NPEからの特許侵害訴訟コストとして2倍以上の平均700万米ドルかかっている。

理由としては、当然ながら事業規模が大きいため、高額な和解金・損害賠償金となる場合が多いからである。

また、訴訟にかかる費用も1件あたり1億円を超えることもある。これは、米国の証拠開示制度(ディスカバリー)の負担が大きいためである。ダンボールでオフィスビル1フロアくらいの分量の証拠を開示する必要があり、その準備と解析で弁護士の工数が非常に多くかかることが理由である。

そのため、訴訟に持ち込まずに、高額であろうと和解で妥結するという例が増えているとも言える。

 

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パテント・トロール訴訟における費用総額

※ なお、パテント・トロールについては、小説風に書かれたこちらの本がとてもおもしろいです。倫理的にどうか、はおいておいて、パテントを目利きし、仕入れ、訴訟などで活用し、それにより売上を立てる、という企業がアメリカでは上場しているくらいです。合法的な海賊のようで怖いですが、対策しておかないといつ自社が被害に合うかわかりません。

 

 

必須特許なくして市場参入なし

必須特許とは、ある製品を製造するために実施しなくてはならない特許のうち、回避不能な特許である。

多くの大企業では、年間数億円から十数億円の予算を計上して知財活動を行っている。これだけのコストを知財活動に投資する合理性を端的に示す論拠となるのが必須特許ポートフォリオ理論である。いかに優れた研究開発を行っても、その知財化を怠り、必須特許を取得できなければ市場参入はできない。市場参入を果たしたとしても、必須特許を取得している企業に追い出されることになる。「必須特許の取得なき研究開発は、投資のムダに帰着する」といえる。

また、必須特許保有者同士の争いは第三者の利に帰する。なぜ、「必須特許なくして市場参入なし」といえるのだろうか。

 

このことを「青色 LED」を例に考えてみたい。

必須特許を持つ者同士の戦いは漁夫の利となる

青色 LED には、ノーベル賞を共に受賞した中村修二氏 (日亜化学工業側)、赤崎勇氏と天野浩氏(豊田合成側)らが発明した必須特許(青色 LED を生産するために実施しなくてはならない回避不能な特許)が多数存在する。青色 LEDの必須特許については、日亜化学工業豊田合成の2社が必須特許の大半を保有している。

日亜化学工業保有している十数件の特許権は必須特許なので、豊田合成が青色 LED を生産する際には、日亜化学工業の特許を実施しなければならない。逆の関係も成立し、豊田合成保有している特許権は必須特許なので、日亜化学工業が青色 LEDを生産する際にはこれらの特許を実施しなければならない。

 

だとすると、お互いに特許を侵害しあいながらビジネスを行っていることになる。ゆえに、ここの2社は、熾烈な特許侵害訴訟を繰り広げたのであった。

しかし、翻って考えてみると、両者が保有しているのは青色 LED の必須特許のため、回避不能である。つまり、特相手方の特許を無効であると主張するしかない。現実に、いくつかの必須特許が無効であると判断された。

 

この状況は誰を利するのか。日亜化学工業でも、豊田合成でもない、第三者である。つまり、少数必須特許保有者であるX社からすれば、先頭を走る日亜化学工業豊田合成の必須特許が次々と無効になって少なくなれば、自社の特許ポートフォリオが相対的に強くなると考えるだろう。また、新規参入者である Y社からすれば、必須特許が全て無効になってなくなってしまえば、市場参入しやすくなる。

自分の事業を伸ばそうと思って何億円ものコストをかけて訴訟をしているはずなのに、実は競合する第三者の利益にしかならない。これに気付いたとき、両社は和解という選択肢を選んだ。以降、両社の間に目立った訴訟はない。

 

この件が端的に示しているように、必須特許を保有している者同士は「持ちつ持たれつ」の関係にある。このような関係にある2社は、「包括クロスライセンス契約」という形で、その関係を法的に明らかにするか否かを問わず、特許侵害訴訟などせずにお互いの特許権を尊重し、別の競争力要因(品質、価格、アフターサービスなど)で切磋琢磨する関係を選ぶことに、経営合理性を認めるはずである。

このため、特許侵害訴訟し合うことに、少なくとも特許戦略的な意味はない。

 

成功企業とはいえ、知財投資なくしては事業撤退となる

現実の青色 LED 市場とは異なる姿だが、仮に先行していたA社、B社が過去の成功体験に甘んじて知財投資を怠ったらどうなるのだろうか。答えは、「A社、B社は事業撤退」である。

特許権は出願日から20年で満了(消滅)するため、A社、B社の特許の大半は 20年後には満了し、その結果残るのはC社、D社の必須特許だけになるからだ。

そうすると、A社、B社は市場を真っ先に構築したにもかかわらず、20年後に事業撤退、当該市場ではC社、D社のみがプレイヤーとしてガリバーになる。現実にも、いろいろな業界で長い年月をかけてプレイヤーの交代が生じているが、その背景には意外と必須特許の取得状況が絡んでいたりする。

 

このような事態が生じると、A社、B社は、膨大な機会損失、売り上げの減少に直面することになる。そして、これを防止するためには、自らマーケットシフトを検知して、そこに技術開発をして、その成果を知財化し、可及的にC社、D社の市場参入を抑える必要がある。企業が継続的に知財投資をする理由は、まさにここにある。

もちろん、冒頭記載したとおり、必須特許自体がなくなり、価格などの他の要因での競争が激化したために事業撤退となった例も(残念ながら日本企業にも)とても多い。

 

経営陣の知財理解がないと「ロイヤリティが稼げていないのに知財出願などしても仕方ない。コストカットだ!」となる可能性もあるが、それは上記の将来の重要事業を失うことに直結しうる。その点からも、経営陣の知財リテラシーが非常に重要となる。

 

 

必須特許保有者の特定方法

特許データベースを用いて、ある事象を分析することを特許分析と呼ぶ。

かつての特許分析では、関連する特許文献を数千件程度集めて、数名のチームを組み、端から読んでいくという人海戦術的な手法が用いられていたが、ここではテクノロジーを使った必須特許保有者を特定する分析方法の一例を示す。

まず、分析対象とする分野についてなるべくノイズを少なくするように心掛けながら、数百件、数千件の特許のグループを作成する。この特許のグループについて、出願年を横軸、特許庁審査における被引用回数を縦軸にとったチャートにプロットする(図 6-4)。

工夫点として、一つひとつのプロットについて、特許権者で濃淡を付けて色分けしている。

特許実務上、出願年が古いものほどその内容に基本性が高いという経験則がよく知られている。また、学会論文同様、内容の基本性が高く、記述が豊富な特許出願ほど、特許庁の審査過程において引用回数も多くなる。

これらのことを前提にすると、チャートの左下に位置する特許ほど基本性の高いもの、つまり、必須特許の可能性が高いということになる。

ここでは、チャートの左下は、A社の特許であることを示す●のプロットで占められている。このことから、A社が必須特許保有者であることは間違いない、という結論が得られる。

問題はB社とC社。これらの会社の保有特許で気になるのは、A社の必須特許群の上に位置する B社特許(3件)、右に位置する C社特許 (2件)である。これらのいずれかが必須特許であると判定されれば、B社、C社も必須特許保有者であると認定できる。

ここから先は、「特許明細書を読む」という従来型の手法に戻らざるを得ない。しかし、数千件の特許明細書を逐一読み込んでいた従前のやり方に比べ、チャートで件数を絞り込むことによって、読まなければならない特許明細書の数は数十分の一から数百分の一(この例では5件)に激減する。これによって、必須特許保有者を特定する分析の大幅なコストダウンが可能となる。実務的なコストの目標は、数十万円のレベルである。

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必須特許の保有者分析

 

地域間での特許出願の収支はアンバランス

出願する国は自社のビジネスを行っている、または行うであろう国が対象、とはいえ、グローバルで、今後20年間に自社がどこでビジネスをしているか、検討もつかないことが多いだろう。実施、正確に予測することは不可能であるといえる。

以前はGDPで出願国を決めるなども言われたが、製造がグローバルに広がった現在では需要国以外での権利化の重要性も高まっている。そこで3つのセオリーを唱えたい。

【出願国決定のセオリー】

①まずはコンペティターの生産国、次にマーケット国に出願せよ

②転々流通型製品よりも、据え置き型製品の出願国を多くすべし

現地生産法人の存在国に特許を出願せよ

このうち、三つ目のセオリーは、「③現地生産法人の存在国に特許を出願せよ」というものだ。近年、企業のグローバル化によって、中国、東南アジア、インドなどに現地法人を組成し、製造を担当させる企業が増えてきている。

その場合、現地法人の売り上げの一部を親会社に還元するための費目が必要となる。法的・契約的裏付けのない資金移動は国際税務会計上「不透明」とされてしまうからである。このことから、法的・契約的裏付けとして、親会社から現地法人に対する「ライセンス」という契約関係が用いられるのである。

しかし、近年は、知財権を伴わない「技術ライセンス」(ノウハウライセンス)を費目とした場合であっても不透明であるという、より厳格な運用が普及し始めている。その場合、現地法人の設立国で特許を取得し、現地法人から親会社に対する資金移動を「特許ライセンスに対するロイヤリティ」という費目によって行うことが望ましい。

 

外国出願には二つのルートあり

日本で出願した特許を外国でも取得するためには、日本での出願から 12 カ月以内に外国で出願すればよい。しかし、そのためには、少なくともその外国の法制に沿って出願しなければならない。

それには、外国の代理人を立て、その外国の言語で書いた書類をそろえて提出することが必要となる。これを俗に「パリ条約ルート」による外国出願と呼んでいる。

「パリ条約ルート」による外国出願をするためには、その国の代理人費用、翻訳費用がかかる。資力に余裕のある大きな企業であればともかく、そうではない企業にとって、これは結構な負担である。

そのようなニーズを取り入れたのがPCT 出願である。少なくとも初期的な段階においては、一つの手続で世界各国に特許出願ができるようにした。PCT 出願では、出願時に「全世界を特許取得対象国とする旨」の指定(全世界指定)ができ、これによって、俗にいう「世界特許」を出願した状態となる。

そのうえで、出願日から 30 カ月後(国によっては 31 ヵ月後)73 までにどの国で特許を取得するかを決めればよい。

パリルートによる外国出願が、第一国出願をしてから、外国において追加して出願していくという加算方式の発想を採るのに対し、PCT 出願は、まず全世界出願をして、どの国に出願を残すかという減算方式により出願対象国を定めていく。

多くの場合、二つのルートを組み合わせて出願現状、日本での実務の多くは、これら二つのルートを組み合わせて行われている

 

新規性がない、とは?

「新規性がない」とは、(a) 守秘義務のない第三者が、(b) 発明の内容について技術的に理解し得ること、をいう。いくつかの例で判断方法を説明する。

①発明品を販売してしまい、その取得者が当該製品を見れば発明の内容を技術的に理解できる場合 :発明品の取得者に守秘義務はないのだから、(a)(b)ともに具備することになり新規性なし(特許を受けることができない)。取得者が発明品を分解/分析することによって発明の内容を技術的に理解できる場合も同じ。

②同様の状況で、発明内容が、半導体チップの中のファームウェアに実装されたアルゴリズムの場合 :発明品を分解しても高度なリバースエンジニアリングなくして発明の内容を技術的に理解できないため (b) を具備しないから新規性あり(特許を受けることができる可能性は残る)。

③発明品の試作外注を依頼した場合 :外注業者は発明の内容について技術的に理解するのが通常であるから(b)の条件を満たす。外注業者と

NDA (守秘義務契約)を締結していない場合、外注業者は(a) も具備するため新規性なし(特許を受けることができない)。NDA の締結が推奨されるのは、このような理由があるからだ。

 

 

出典:

知財戦略のススメ