人生の武器としての伝える技術(The rhetoric)(ジェイ・ハインリクス)
前回も少し触れた、世界で話題のレトリック(伝える技術)の本です。帯がオバマ、トランプの似顔絵でインパクトがある本でした。
たくさんの事例がありそれはそれで参考になるのですが、非常に長く、翻訳が難しいので、個人的にポイントをメモしたものを記載します。
レトリック自体は非常に重要なスキルである、と改めて感じます。同じことを伝える場合でも、どう伝えるか、で結果は全く違います。結果が最も大事であり、その点では伝える技術を磨くことは全員必修だと感じます。
国語の授業、こういうのを扱うといいのかもしれません。
聴衆から信頼を得るために
■自分の経験をアピールする。
自分の経験の中でも、その時のオーディエンスが求めている人物像に合致する自分の経験から順番に語っていく。決して時系列ではない。
■中庸であるように見せる。
どの時代にあっても、人は本能的に両極端な選択肢の真ん中にあるものを良いと考える。議論に勝つためには、聴衆の目に論的の立ち位置が極端なものに見えるようにすると良い。
0か100かで争っている人がいた時に、50を提案すれば自分の論が通りやすくなる。
アリストテレスは、徳、を、何かを選択するときの、その人の性質や態度が中庸であること、と定義している。
話の序盤ではパトス(感情)はうまく機能しない。なぜなら序盤では聴衆にあなたが何を求めているかをわかってもらい、あなたの人柄を信じてもらわなければならない。
つまり、ロゴス(論理)と、エートス(人柄)の出番だからだ。感情は徐々に高まっていくようにするのが良い。
「最もパトス(感情)を激しく出してもよいのは大勢の前で話す時で、一対一で話すときはロゴスとエートスが最大の強みになる」、とアリストテレスは述べた。
また、人を行動に駆り立てたければ、パトスを使うのが最も良い。よくも悪くも、感情を沸き立てられた人々は行動に移す傾向にある。
大げさに反応してメリットがあるのは、親しい人と少人数の議論をする時のみ
相手が親しい人である場合は、失敗などの出来事を大げさに振る舞うことにより笑いに変えたり、些細なものだと思わせることができるかもしれないため、さらなる関係性の強化を狙おう。
一方で、大人数だったり、それほど親しくない人の場合は、大げさな振る舞いが逆に効果してしまうため、冷静に対応すべき。
批判された場合は、相手との共通認識を出発点とし論点をずらす
相手に自説を批判された場合、そのまま議論に突入すると平行線をたどってしまう。そんな時は、お互いの共通認識を探り、そこをスタートポイントに議論をスタートすべきだ。
面と向かって議論するのではなく、横に並んで議論をするイメージがよい。そうすれば、相手との友情関係も崩さずに話が進むだろう。
事実、定義、質、妥当性の順に使い、有利な枠組みを設定する。
枠組みを自分に有利に作り、利用すべき。
事実が自分に有利であれば、それを利用する
そうでなければ、言葉を定義し直す。
うまく定義を変えられない場合は、相手の示した事実を受け入れる。ただし、相手の主張は見た目ほど重要ではないと言う議論を展開する。
それでもうまくいかなければ、その議論は不適切だと主張をする。
スピーチを行う場合、論理的に正しいことよりも効果的な言葉を繰り返すだけの方が効果が高いことがある
論理性のないスピーチであっても、聞き手の頭に刻みつけたい言葉を際立たせることで自分がそれに気づいてコントロールできていると言う印象、記憶をオーディエンスに植え付けることができる。
「事実はわかっています。私たちは問題を抱えているということです。事実はわかっています。それに対して、何かをしなければいけないということです。」
このように言った場合、聞き手の頭には事実、わかっている、問題、事実という単語しか記憶に残らない。あたかもその候補者が素晴らしいことを言っているかのように思い出すことになる。
スピーチの構成は、まずエートス、次にロゴス、最後にパトスの順で組み立てる
スピーチの組み立て方の基本は何千年たっても変わらない。
まずは聴衆を惹きつけることから始める。自分と聴衆の共通の価値観、良識を持っていること、聴衆の利益を考えていることをアピールすることで、聴衆に好意を持ってもらい、一体感を持たせる。それはエートスを利用する。
続いて、自分の主張を持ち出す。その際は、事実から話を始め、自分の立場を主張し、自分の考えるポイントを論理的に述べる。そして相手の主張を退ける。
最後に行動に結びつく感情を呼び起こし、聴衆を煽る。
より具体的には、下記の流れで話を組み立てる。
1 序論:聴衆の関心と好意を得るために、エートス(人柄)をアピールする
2 事実:事実を時系列に沿って並べる。経緯や、事実を数字とともに。簡潔に、明瞭に、もっともらしく話す。
3 提議:あなたと論敵の意見が一致する点、一致しない点を挙げる。
4 立証:自分の議論の核となるものを述べ、その例を挙げる
5 反論:ここで相手を論破する
6 結論:自分が最も訴えたいポイントを、もう一度述べる。できれば少し感情的に
素晴らしいスピーチのために
上記のような構成、ストーリーを素材としつつ、素晴らしいスピーチのためには、
・適切な言葉
・明瞭さ
・鮮烈さ
・ディコーラム(相手に合わせること)
・声の大きさ
・リズム
そして、なによりも
・タイミング
・手段
これらに気を配らないといけない。中身に加えてこれらの要素も差別化の要因となる
話し方のテクニック
【言葉の工夫:不利を有利に変え、聴衆にいい印象をつける】
・常套句を使う、または常套句を文字通り使い、皮肉る
・ 2つのものを並べて、比較する、それにより際立たせる
・言葉の意味を再定義し、変える
・同じ言葉を連続する、違う文脈で使い、違う意味を持たせ、聴衆にイメージさせる
【枠組みづくり:議論の範囲を定める】
・ 聴衆の共通認識を見つけ、なるべく多くの人の価値観に訴えることができるように、論点を幅広いものにし、そして未来形を使って、具体的な問題や選択肢について議論をする。
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以上です。何かをプレゼンする時、説明するとき、見直していきたいと思います。
出典:THE RHETORIC 人生の武器としての伝える技術