必読!おすすめビジネス書のご紹介

ビジネス書、何を読むべきか悩みますよね。ランキング上位を買ってみても、案外学びにならなかったり。そんな思いから、おすすめの本の概要を書くことにしました。外資系戦略コンサルなどで勤務した私が、おすすめの本をご紹介します!参考になれば幸いです!

オオカミ特許戦略(田所 照洋)

また知財シリーズで恐縮ですが、とてもいい本を見つけたので投稿します。それがこのオオカミ特許戦略です。

背景知識として、日本では年間30万件も特許が出願されているのに、訴訟に発展しているのは150件ほど。一方の中国やアメリカは5000〜10000の訴訟が毎年起こっています。

また、弁理士さんの報酬体系は中身によらず、特許が登録されたかどうか、で決まります。

その他の理由も加味すると、「他社を訴えることすらできない、狭い権利の特許がたくさん出願されている」ということが見えてきます。

本書はどうすればそんな罠に陥らないか、ということを力説している田所さんの本です。ぜひ、日本の知財部全員に読んでほしい...!!と感じてしまった本です。

 

 

オオカミ特許革命 事業と技術を守る真の戦略

 

拒絶理由通知を恐れない

審査官はプライドを持って拒絶理由を書く。

実は、審査官の拒絶理由に対して、ていねいに内容を検討し、適切に意見書を出したり補正したりすれば、権利範囲をかなり広くしたままでも、拒絶理由を克服できることがとても多いのです(これは本当に大事な事実です)。

審査官が、「この発明は、特許を受けることができない」と断定してきた場合でも、その判断に 100%の確信を持っているとは限りません。「五分五分かな」「四分六で特許になるなあ」といった心証であっても、「この発明は、特許を受けることができない」と、断定的にいってくるはずです。「この特許は五分五分である」と正直に、拒絶理由に書けるはずがないからです。

 

特許登録ではなく、権利行使をゴールに据えて、拒絶理由通知に対し、強気、かつ丁寧に対応することでオオカミ特許が取れる。

特許法の構造は、審査官がある程度誤った審査をおこなうことを前提としています。そのため、審査官の判断の誤りには、出願人が意見書で反論できるようになっています。また、審査官の誤った審査結果は、上級審の審判制度が救済することになっています。

したがって、審査官は、「私の拒絶理由に文句があるのなら反論してください」と腹をくくったうえで、厳しめに審査している可能性があります

発明者と出願人が、「特許出願のゴールは『登録』ではなく、『権利行使成功』である」という意識革命をし、「権利行使を成功させるために広い権利範囲で特許を登録にしてみせる」という決意をすれば、審査官の拒絶理由通知に対して、ていねいに、適切に対応するようになります。すると、拒絶理由通知自体にいろいろな問題があることが見えてきます。そして、広い権利範囲で特許を登録にすることが実際に可能になります。その結果、権利行使できるオオカミ特許の量産ができるようになるのです。

 

審査官の手の内「検索報告書」を知り、活用する

検索報告書は、拒絶理由通知で引用された各引用文献の開示内容と、請求項の構成要件との関係を対比分析したもので、引用文献の先行技術としての価値が明確になります。また、審査官の手の内を見抜くうえで極めて有益な情報です。検索報告書のことを知ると、その効用の大きさにきっと驚かれると思います。

また、検索報告書を活用できるようになると、後述の毒団子入り拒絶理由通知や、ステルス拒絶理由通知を高確率で見破ることができます。

検索報告書の説明情報は、「独立行政法人 工業所有権情報・研修館(INPIT)」の Web サイトから入手することができます。とても有益な情報なので、一読する価値は十分あります。

https://www.inpit.go.jp/content/100798506.pdf

また、実際の検索報告書は「J-PlatPat」 において、審査官に報告された検索報告書を見ることができ、「経過情報」の中に「検索報告書」が存在する場合があります。

ほとんどの場合、検索報告書が提出された直後に拒絶理由通知が出ています。前述のように外注率が約8割ですので、全特許に検索報告書が存在しているわけではありません。

 

しかし、ここで検索報告書を表示すると、表示の位置がゴチャゴチャにずれた、内容の把握をすることが嫌になるほど酷い表示になってしまうことがあります。

そこで、検索報告書を見やすい画面で見るために次の手順を踏んでください。

右上の「OPD」アイコンをクリック

→「ワン・ポータル・ドシエ (OPD)照会」になったら、画面右下にある「書類一覧 開く」をクリック

→書類情報(一覧)から、検索報告書欄の右側の「原文」をクリック

検索報告書の見方

検索報告書本体の見方は公開されていないようですが、おそらく下記の通りです。

 

■検索報告書の「3. スクリーニングサーチの結果(提示文献毎の表示)」

「カテゴリー」とは、「各文献の引用例としての価値」を表す、とても重

要な記号です。先行技術文献のカテゴリーには、X、Y、Aの三種類があり、それぞれ以下の意味があります。

X(ドンピシャ文献):当文献のみで、発明の新規性を否定できる文献

Y(組み合わせ文献):他の文献Yとの組み合わせで、進歩性を否定できる文献

A(参考文献):他の文献と組み合わせても進歩性を否定できない文献

これらのカテゴリー評価記号は、PCT 出願の国際調査報告書とだいたい同じ記号が使われています。

■検索報告書の「4. スクリーニングサーチの結果(クレーム別形式)」

各請求項を構成要件ごとに分解し、各構成要件が、各文献においてどのように開示されているかを○×の記号で表示したものです。

例えば構成要件「1a1b1c」について、文献 No.1に、全部開示があること(請

求項の要素に該当する要素が文献 No.1に記載されていること)を「ooo」で表しています。

そして続けて、1a、1b、1c の各構成要件の説明文が書いてあります。

例えば、スクリーニングサーチ結果では、「2a」と「3a」が、両方とも「×」になっていれば、すなわち文献1には「2a」と「3a」の開示がないこと、その結果、

クレーム3に対する文献1のカテゴリーが、Y1(他の文献との組み合わせで進歩性を否定する文献)であることが示されています。

  • 以上のものがこのように使われます。

クレーム1:文献 No.1 を根拠に、「請求項1は引用文献1に記載されたものである」として、新規性なしの拒絶。

クレーム 2:文献 No.1 と、文献(特開 2006-43479 号公報)とを根拠に、「当業者が容易に想到し得たことである」として、進歩性無しの拒絶。

クレーム 3:文献 No.1 と、文献(特開 2006-43479 号公報)と、文献3とを根拠に、「当業者が容易に想到し得たことである」として、進歩性無しの拒絶。

しかし、審査官のなかには検索報告書のカテゴリー評価を強引に変えて、拒絶としている、不当と思える拒絶理由通知もあるので注意が必要です。たとえば、検索報告書では構成要件の開示不足でA文献(参考文献)と評価された引用文献が、拒絶理由通知ではX文献(ドンピシャ文献)として引用されている酷い例があります。

そのため、手の内を探るという意味で検索報告書は要チェックです。

 

 

広い権利を取れる特許を出願すべし

明細書には、発明内容に加えて思いつきやアイデアを含めて、請求項とは関係なく幅広に書いておく

発明だけでなく、頭の中で考えていた技術内容を出願時の明細書に書いておくことはとても重要です。

なぜなら、出願時点では発明だと気づかなかった発明や、未来において重要になる予想外の発明が、考えていた技術の中に潜在していることがとても多いからです。出願時点で、後で説明する「特許請求の範囲」に何が記載されていても、明細書や図面に書いてある範囲内であれば補正ができるからです。登録まで補正は何度も可能です。極端なことをいえば、半導体に関する特許出願の明細書に、自転車の技術を開示しておいても大丈夫です。もし、開示した自転車の技術にも発明があれば、後日、その自転車に関する発明を何件でも分割出願することもできます。しかも、遡及効により、自転車発明の出願日は、半導体に関する特許出願日にさかのぼり、同じ日になります。

一方で、請求範囲はなるべくシンプルに、抽象的に書き権利範囲を広める

「特許請求の範囲」に、あれも、これも、といろいろな技術要素を多く記述すればするほど、権利範囲はドンドン狭くなってしまいます。特許初心者に多い誤解として、「『特許請求の範囲』をできるだけくわしく書かなければいけない」というものがあります。実際は、「特許請求の範囲」に書けば

書くほど、特許の権利範囲は、ドンドン狭くなりますので十分な注意が必要です。

くわしく書かなければいけない明細書と、くわしく書いてはいけない「特許請求の範囲」、この差分をよく理解することが重要です。

名称も幅広めのものにする

「発明の名称」は、特許の権利範囲の外郭を必然的に決めてしまいます。なぜなら、クレームの語尾は~~という〇〇、と書くことになり、その◯◯はその発明の名称になることが一般的だからです。

「発明の名称」で、特許の権利範囲の外郭が決まってしまうということは、意外に知られていない盲点です。広い権利範囲を獲得する闘いは、「発明の名称」を考える時点で、すでに始まっているのです。

例えば...

インクジェットプリンタ ではなく プリンタ

デジタル一眼レフカメラ ではなく 撮像装置

四輪驅動車 ではなく 移動体

 

明細書をブラッシュアップする手順

明細書はより短くより広く、かつキーエレメントを入れ込んで進歩性と新規性を担保せねばなりません。その手順として...

・手順1 発明の実施例に基づいて、クレームドラフト(「特許請求の範囲」導入を約200 文字のワンセンテンスで作成する

・手順2 そして、そのクレームドラフトを構成要件ごとに区切って分節化し、構成要件とキラーエレメントをマーキングする

・手順3 各分節を順次、添削し、クレームドラフトをブラッシュアップする

もし手順2でキラーエレメントが2つある場合、一つの請求項に1つにするために削る、または請求項を分割します。

2つ入れてしまうと余分な限定になってしまい、権利範囲がかなり狭くなるからです。私は、キラーエレメントを1つだけにすることを「一点豪華主義の原則」といっています。

 

審査の過程では審査官の気持ちや作戦を考えながら妥協のない対応を

審査官の顔を立てつつ、実利を取る。

なお、審査官は必ず一度は拒絶理由を書きます。それが仕事だからです。

そしてプライドも上司もありますので、何もなく譲歩してくれる(登録してくれる)ということはあまりありません。そこで、意図的に広めに出願し、当たり前の範囲にまで狭める(例えばプリンタ、として出願し、インクジェットプリンタ、に訂正することで、範囲限定させたという手柄を審査官に持ってもらう。)ことも作戦として重要です。

相手は人なので、審査官の顔を立てることも重要です。

 

実は拒絶理由通知が届いたときが、オオカミ特許を獲るビッグチャンス

拒絶理由通知が届いたときは、すでに特許を侵害している競合商品が上市されている可能性があります。すくなくとも、競合動向は出願当時よりも見えています。出願当時には見えなかった未来が見えているという意味でとてもチャンスなのです。

模倣品や競合製品を見ながら「特許請求の範囲」を作ることができる

模倣品や競合製品の具体的な構成がわかっていない場合、それらの構成を予想して、それらが権利範囲に入る広めの「特許請求の範囲」を権利化しなければなりません。その結果、無効性が高くなります。

しかし、模倣品や競合製品を見ながら「特許請求の範囲」を作る場合、無効性が高くなるリスクを取ることなく、それらを確実に権利範囲に含む程度の広さで「特許請求の範囲」を作ることができます。また、模倣品や競合製品を見ながら「特許請求の範囲」を作ると、誤って「特許請求の範囲」に余分な限定を入れていまうミスを防ぐ大きな効果もあります。

このように、模倣品や競合製品を見ながら「特許請求の範囲」を作る効果は絶大です。

拒絶理由通知が来たときの米国企業の対応に学べ

米国企業は、拒絶理由通知が来るとオオカミ特許獲得大作戦を展開します。

発明者や社内特許弁護士(日本の特許担当者に相当する仕事を担当)だけでな

く、社外の特許弁護士(米国特許庁との権利化手続きを担当)、セールス部門の責任者、技術部門の責任者が一堂に集まって、拒絶理由通知がきた特許の権利化戦略会議を開催します。

まず、セールス部門の責任者が、自社製品、競合製品の販売台数、価格、シェア、今後の売上げ予測、などを報告します。

次に、技術部門の責任者が、自社製品、競合製品の構成、改良の可能性、などを説明します。社内弁護士は、拒絶理由通知が来た特許の権利範囲の説明、この権利範囲と自社製品、競合製品との関係、関連特許の自社出願状況、競合の特許出願状況、などを説明します。

さらに、出願した特許の技術内容に似た競合製品が見つかっている場合、まず、セールス部門の責任者が、その競合製品の販売状況(販売国、販売台数、販売価格、商品名)を説明します。

その後、技術部門の責任者が、その競合製品の技術的な構成を説明します。

そして、社内弁護士は、その競合製品を確実に特許の権利範囲に含めるために、「特許請求の範囲(クレーム)」の補正案や分割出願の必要性を説明するのです。

そして後日、社内弁護士と社外弁護士は協力して、戦略的な分割出願、効果的な補正手続き、などの権利化戦略や、権利化後の特許訴訟戦略をセールス部門責任者や技術部門責任者に提案します。

このように、拒絶理由通知が来たとき米国企業は、社内外の英知と情報を集め、特許訴訟も視野に入れて、最大の利益を獲得するために特許の権利活用戦略を真剣に検討します。

権利行使できる特許を獲得するビッグチャンスだからです。日本企業も、米国企業の先進的なアプローチから多くのことを学ぶべきです。

拒絶理由があると認定されても、審査官の誤りを指摘することで、登録になった事例は数多い

審査官の認定は、大量の審査案件に対しておこなわれるうえに、だれのチェックも受けない審査官1人の独断なので、まちがっていることが多いです。また、広い請求項に有効な先行技術が見つけられなかった場合、広い請求項を諦めさせるために、毒団子入り拒絶理由通知を出してくることもありえるからです。

そのままの請求項では反論しきれない場合でも、少しだけ権利範囲を狭く補正することにより、自社・他社の実施技術を十分に権利範囲に含む広さの請求項(技術的・経済的価値がある請求項)を権利化できることも多くあります。

 

「毒団子入り拒絶理由通知」への3つの対策

拒絶通知の中には、これを削れば権利ですよ、という甘い文言を記載し、中には嘘(毒団子)も入っているというタイプがあります。弁理士の中にはそれを鵜呑みにする人もいます。安易に言われたとおりに削れば登録査定がもらえるのでその気持ちもわかります。

毒団子入りタイプ拒絶理由通知がきた場合はけっして安易な道を選ばず、しっかり、各請求項に関する拒絶理由を吟味することがとても大事です。拒絶理由があるとされた広い請求項が、実施している技術を権利範囲に含む重要な請求項であればなおさらです。

毒団子入り拒絶理由通知への対策は、次の3つです。

①新規性・進歩性を反論主張する

拒絶理由があるとされた広い請求項に、新規性や進歩性があることを反論主張

②毒団子を食べて、分割出願もおこなう

「拒絶の理由を発見しない」とされた狭い請求項だけを、確実に登録にするとともに、拒絶理由があるとされた広い請求項を分割出願する方法があります。

「拒絶の理由を発見しない」とされた狭い請求項を確実に登録にしたうえで、じっくりと、広い請求項の権利化に挑戦することができます。この方法は、米国特許では特に有効です。

弁理士に真剣な対策提案を要望する

審査官の拒絶理由通知について、審査官の主張をオウムのように繰り返して出願人に伝えたり、「請求項5とその従属項に限定すれば、この特許は登録になります」のように安易なアドバイスをしたりする弁理士には、出願人として満足できないことをきちんと伝えましょう。そして、拒絶理由通知に対してとりうる複数の選択肢の提示と、それぞれに対する弁理士としての意見や提案をきちんと伝えてくれるように弁理士に要望しましょう。

「特許は、単に登録にすればいいのではなく、権利行使できるように登録にしなければならない」ということを、常に忘れないでください。

 

「ステルス拒絶理由通知」に気をつける

審査官はドンピシャの先行事例が見つけられない時、「これとこれは実質的に同じである」というようなグレーな書き方をし、曖昧な事実をステルスで埋め込みながら断定的な拒絶理由を出します。そして弁理士側はそのグレー度合いを見破れず、「審査官が言うならば...」、と思いこんでしまうことがあります。

ステルス拒絶理由を見破るコツは...

①頁数が多く、長い拒絶理由通知に注意する

普通の拒絶理由通知は、3頁程度だと思います。拒絶理由通知が長いと、発明者も特許担当者も検討することがおっくうになり、審査官の見解をかんたんに受け入れてしまいます。また、長い拒絶理由通知は、文字数や情報量が多くなりますので、事実に反することを「わからないようにこっそり埋め込んだ状態」でも気づきにくくなります。

したがって、発明者や特許担当者は、拒絶理由通知の長さに惑わされず、拒絶理由を構成する各文章をしっかりと読むことが大切です。

審査官が断定しているところは、正しいのか、誤りがあるのか、文章ごとに評価します。誤っている記述が見つかれば、反論の起点になる可能性があります。また、断定せずに推定的な記述や、「実質的に書かれている」とか、「ほぼ同じである」といったあいまいな記述があれば、「ここはステルスかもしれない」と注意しなければなりません。

 

請求項の記述や先行技術の記述を「すなわち」、「換言すると」、「要するに」、「わかりやすくいえば」、などで、言い換えている場合も要注意です。言葉の概念を変えてしまったり、審査官の主観が入ったりしてしまうからです。どんなに忙しくても絶対に外せないのは、請求項の「進歩性担保構成要件」(キラーエレメント)に関する拒絶理由通知の記述です。請求項にキラーエレメントがわかるようにしっかりマーキングを付したうえで、拒絶理由通知を吟味しましょう。キラーエレメントに関する拒絶理由の記述がまちがっていることがわかれば、もはや、勝ったも同然です。

ステルスを見破るコツ② 引用文献の数が多い拒絶理由通知に注意する

引用文献の数が多いと、それだけで発明者も特許担当者も拒絶理由通知にとりくむ意欲が萎えてしまいます。引用文献の数が多いと、拒絶理由が複雑に見えたり難解に見えたりするからです。

しかし、引用文献の数が多くても、すべての引用文献が等しく重要であることは絶対ありません。

 

たとえば、「引用文献1に引用文献2を組み合わせることにより容易に発明することができたものである」というふうに、「なぜ、組み合わせることを容易に思いつくのか」について、根拠を明確に示さず、大雑把に、都合よく結論づけてしまうことが多いのです。たとえ、根拠に言及していたとしても、説得力がない表面的な説明であることが多いのです。審査する側はそのことをよく知っていますから、進歩性を否定するときは内心ビクビクしているはずです。

 

 

「容易に発明できた」と拒絶理由通知が来たら、発明者、出願人はシメタ!と思うべき

きちんと反論すれば、論破できることが多いからです。

容易ではありません。〜という技術的理由があるからです」と、技術的理由に基づいて反論されてしまうと、審査官はぐうの音も出なくなってしまいます。

進歩性の議論では、大雑把な主張をしたほうが、具体的な主張をした方に必ず負けます。したがって、拒絶理由通知における審査官の主張に対しては、たとえ、ほんの少しでも、より具体的(技術的)に反論をすることが勝ちにつながります。

拒絶理由に対する反論の起点は、次のようなところにあります。

①本発明の技術認定を誤っている

②主引例記載の技術認定を誤っている

③副引例記載の技術認定を誤っている

④本発明と主引例記載の技術との一致点を誤っている

⑤本発明と主引例記載の技術との相違点の認定を誤っている、もしくは相違点を見過ごしている

⑥主引例と副引例の組み合わせ可否の判断を誤っている (強引な組み合わせ)

⑦課題の不一致・引例組み合わせの阻害要因・特有の効果、等を見過ごしている。

典型的な拒絶理由のスタイルは、次のようなものです。

本発明と文献1に記載された発明は、X手段を有する点で同じである。しかし、文献1には本発明のY手段の記載がない。一方、文献2には、Y手段の記載がある。文献1と文献2は、同じZ技術分野に属するので、Rという課題が共通している。

したがって、文献1に、文献2のY手段を組み合わせて本発明とすることは、当業者が容易になしえることである。

しかし、実際は同分野とはいえ異なる技術を容易に結び合わせることができないことも多いと思います。そんなときは、課題に着目しながらその主張を行うべきです。最近の知的財産高等裁判所でも、分野ではなく課題に着目して進歩性が議論されることが多いです。

拒絶理由通知に難解な理由が出現したときは、審査官も苦しい場合が多いのです。特に、引用例が見つからなくて苦し紛れに、「設計事項」を持ちだした場合は、内心では反論されることを恐れているはずです。

「主引例と副引例は課題が異なっており、組み合わせることは容易ではない」のような反論を、専門家である技術者から具体説明、証拠とともに突きつけられると審査官も苦しくなります。

また、拒絶理由通知への反論は、審査官に認められなくても審判では認められる可能性があります。また、審判で認められなくても、知的財産高等裁判所では認められるかもしれません。したがって、拒絶理由通知に納得できないのに、なんとか審査官に認めてもらおうと、権利範囲を狭くする補正は絶対にしてはいけません。

 

拒絶査定にもメリットが有る

拒絶査定にも 4つのメリットがあります。権利を狭めて登録されてしまうとそれでおしまいですが、拒絶査定であればまだチャンスがあります。

①拒絶査定不服審判を請求できる

審判では、3人もしくは5人の審判官による合議で審理されるので、審査段階

よりもしっかりと審理されます。また、審判では審査段階より、広い権利範囲の特許を獲得できるチャンスが大きくなります。

審判請求のデメリットは、費用と時間が余分にかかることです。

 

②分割出願ができる

分割出願は、明細書に記載されていた発明を別発明として出願することです。分割出願の出願日は、分割出願をした日ではなく、原出願の出願日にさかのぼります。

拒絶査定不服審判の請求と同時に、分割出願ができます。また、拒絶査定不服審判を請求しない場合でも、最初の拒絶査定の謄本送達日から3カ月以内に分割出願が可能です。

③補正手続きができる

審判でも補正ができます。さらに、審判請求と同時に補正すれば、自動的に「前置」され、審査官が前置審査をおこないます。審判に進むことを嫌がる審査官が特許登録にしてくれるかもしれません。

 

特許庁に係属する期間を長くできる

特許庁に係属していると補正や分割出願などの手続ができますが、係属していないとそれらの手続ができません。登録されてしまうと係属終了ですが、拒絶査定後であればまだ係属中なので打ち手は残されています。

 

拒絶査定不服審判は大きなチャンス

特許法は、審査官に拒絶査定や特許査定などの行政処分を独立しておこなえる強い権限を与えています。しかし、審査官がおこなった査定に瑕疵があることもありえます。

そこで、瑕疵ある査定を是正するために、出願人が拒絶査定の取消しを求める審判制度を設けています。

拒絶査定不服審判は、3人または5人の審判官による合議体で審理されるので、審査官の審査より公平・公正な審理を期待することができます。

審査官は自分1人で判断して、行政処分をおこなえる強い立場でありますが、審判官の立場はどうでしょうか?

実は、審判官は、とても厳しい立場に置かれています。審判官がミスした場合、特許庁をでて、知財高裁に行きます。逆に、審査官がミスしても身内の特許庁での不服審判です。このことから、審判官には特許庁上層部からかなりのプレッシャーがかかります。この審判官の厳しい立場を理解したうえで、拒絶査定不服審判を積極的に活用することが、オオカミ特許獲得につながります。(端的に言えば、揉め事を起こしたくないのでなるべく登録査定を出したいのです。)

私は、「拒絶査定不服審判」を「オオカミ特許三銃士」(審判請求・補正手続・分割出願)のひとつに位置づけています。

実際、拒絶査定不服審判後、特許登録となる比率は全体の70%にもなります。つまり、それだけの特許が拒絶査定を乗り越えることができるということです。

 

大きな意味で、審判官も特許出願人も「特許を登録にしたい」という同じ考えです。そのため、審判官が登録を出す口実を様々提供する事が重要です。

・発明技術の説明や発明に至るまでの技術的苦労話を技術者がおこなう

・先行技術との違いを図解したり実物を使ったりしてわかり易く説明する

・発明を実施している商品の技術説明、実機による実演、販売状況の説明をする

・審判官に、かんたんに諦められない事業上の理由があることをアピールする

・引用例にない本願発明の特徴的な構成や、それによる特別な効果を説明する

・本願発明の技術的課題と、技術的課題に到達した経緯を説明する

・戦略的な補正案(広め・中程度・ギリギリ案)を準備し、広めから提示する

ただし、その拒絶査定不服審判も、失敗すれば実質あとがありません。そのため、チャレンジする前に分割出願を行っておくことが重要です。(多い例では10以上に分割されます)

 

補正の重要性〜特許は後出しジャンケンが基本ルール〜

特許の世界は後出しジャンケンが基本ルールとなります。

たとえば、A社が特許出願してその特許が公開されると、競合企業B社は公開された特許の内容を十分に検討して、A社の特許を侵害しないように類似品を開発します。 この場合B社は、A社の公開された特許をみて侵害を回避していますので、後出しジャンケンをおこなったといえます。後出しジャンケンを行ったB社は、合法的に侵害を回避している訳です。

一方、特許法では、競合製品を見てからその製品を権利範囲に含む特許を出願しても、権利化することができません。競合製品は特許出願の前に、公知の技術になってしまっているからです。

しかし、ある方法を使えば、先攻の特許出願人が後出しジャンケンできる場合がいくつかあります。代表的な方法は、「補正」です。

具体的には次のようにおこないます。

①(先攻):特許出願する

②(後攻):特許を回避した模倣品を販売する

③(先攻):模倣品が侵害となるように「特許請求の範囲」を「補正」する

模倣品が世の中に出てきてから、先攻の特許出願人が、模倣品を見ながら「特許請求の範囲」を補正して模倣品を権利範囲に含む特許を獲得すれば、後攻の模倣品メーカーに勝つことができます。

すなわち、先攻の特許出願人は、後攻の模倣品メーカーに対して補正することにより、勝つ可能性を高めることができる訳です。

「「特許請求の範囲」の補正は、狭くする補正しかできない」と思われている技術者・研究者が多いようです。しかし、補正で「特許請求の範囲」を広くすることは可能です。

「狭くする補正しかできない」のは、「最後の拒絶理由通知」に対しておこなう補正や、拒絶査定不服審判の請求時におこなう補正です。

「特許請求の範囲」を広く補正することによって、権利行使できるオオカミ特許を獲得できるチャンスが広がります。補正で「特許請求の範囲」を広げるテクニックは、とても大切なので、具体的な事例で説明します。

 

補正で「特許請求の範囲」の請求項を広げる

特許の世界は、後出しジャンケンが基本ルールの世界です。先攻の特許出願人は、後攻の模倣品メーカーに対して、補正で勝つことを出願の前から心がけておくことが大事になります。

下記の方法で、特許出願時の技術情報開示量をできるだけ多くしておけば、補正による未来対応力の可能性を大きくすることができるからです。

①「特許請求の範囲」の構成要件を削除する補正

②「特許請求の範囲」の構成要件(修飾部を含む)を抽象化(一般化・上位概念化)する補正。ただし、当初明細書に構成要件の上位概念などを表す言葉が開示されていることが必要です。

③「特許請求の範囲」の構成要件修飾部を短くする補正

④「特許請求の範囲」を技術的思想として広く表現する補正。当初明細書に技術的思想としての表現が開示されていることが必要です。

⑤「特許請求の範囲」のキラーエレメントを1つだけにする補正

うち、②、③、⑤が安心してできる、有用性が高い補正です。

「特許初心者は、発明のすばらしさを訴求するために、発明の効果をたくさん書きたくなります。しかし、効果のひとつでもターゲットと違っている場合、相手から「弊社製品では、発明の効果がないので、貴社特許を侵害していない」と主張されるリスクが生じます。裁判所がこの主張を認めるかどうかはケースバイケースですが、余計なリスクはできるだけ事前に排除すべきです。

私は、発明の効果や解決する課題について、出願時は、普遍的/一般的なもの(具体的ではないもの)を1つだけ書くように心がけています。たとえば、「本発明の効果は、操作性を改善することができることである」とか「コストを下げる効果が期待できる」という風に記載するわけです。

どうしても効果のすばらしさを訴求したい場合は、発明の効果としてではなく実施例の効果として明細書に書きます。

解決する課題の記述についても同じです。しかし、最近は進歩性の判断に課題が大きく影響するようになりましたので、課題をくわしく書く必要がある場合があります。

そこで出願時は、「侵害判断に影響する、発明が解決する課題」は、効果の記載と同様に、普遍的/一般的なもの(具体的ではないもの)を1つだけ書くようにします。そして、「進歩性の判断を有利にするための具体的な課題」は、実施例の課題として記述しておきます。

それにより、後から補正によりクレームの幅を広げる余地を残しつつ、出願を行うことがポイントとなります。

 

 

ものすごい長文になってしまいました。

ご参考になれば幸いです!

 

オオカミ特許革命 事業と技術を守る真の戦略