必読!おすすめビジネス書のご紹介

ビジネス書、何を読むべきか悩みますよね。ランキング上位を買ってみても、案外学びにならなかったり。そんな思いから、おすすめの本の概要を書くことにしました。外資系戦略コンサルなどで勤務した私が、おすすめの本をご紹介します!参考になれば幸いです!

特許戦略論 特許戦略実践の理論とノウハウ(久野敦司)

知財を、文字通り戦略、という側面から捉えた、とても端切れがよく初心者にも意識しやすい用語で書かれている本です。

特に攻めるという観点での示唆が大きく、日本企業が一般論として苦手とする部分が解説されている貴重な本です。

 

 

特許戦略論 ~特許戦略実践の理論とノウハウ~ (mag2libro)

 

 

特許戦略とは

筆者は特許戦略とは、「時間、空間(国)、技術分野、ビジネス分野という軸で張られる経済活動空間において、特許パワーと情報パワーと組織パワーの結合からなる構造体である特許戦力を、目的のために最適に実現し活用する計画」と定義している。

特許パワー

  • 特許権の権利範囲の広さ x 権利範囲内のマーケットボリューム (掛け算であり、請求項に含まれる製品がほんの少ししかなくても、その製品の売り上げ規模が巨大であれば特許パワーは大きい)
  • その特許発明の侵害発見容易性
  • 特許権の権利期間の長さと、特許権の個数
  • 技術内容及び権利範囲の理解容易性

情報パワー

  • 他社製品の侵害摘発能力、 他社製品の情報収集分析能力
  • 工事技術の調査、分析能力
  • 訴訟能力、交渉能力
  • 自社と他者の特許情報の管理体制及び特許の内容へのアクセスの容易性

組織パワー

  • 特許権活用上での各種の障害を乗り越えてでも、活用しようとする目的の存在とその目的達成の意思
  • 特許権活用担当部署の士気と知識、能力
  • 特許権活用担当部署の社内的な地位の高さ
  • 特許権活用における意思決定体制と必要予算の確保
  • 特許権活用担当部署と他の部門との協調体制の強さ
  • 特許権活用担当部署の戦力についての世間の評判、間接的な戦略

特許戦争とは

特許戦争は、特許戦力を用いた攻撃と防御によって行われるゼロサムゲームである。事業目的と整合のとれた目的を設定し、確固とした大義名分の下で、事業のスピードと同期できるスピードで特許戦争を行わねば、 特許戦争を戦ったとしても目的達成ができない。特許戦争は慎重に準備し、開始したら早期に完遂すべきである。

特許戦争に勝つ要因は、強い特許パワーと、適切な特許戦略と、特許戦略の適切な実行である。 それぞれが噛み合って進まねばならない。

特許戦略の5形態は「防御、攻撃、威圧、宣伝、提携」

このうち、最も上策は「提携」である。一方で最も下策は「防御」である。

提携では、自分の事業領域を侵食されることもなく、自分の特許権について実施権を与えるのでもなく、補完関係にある相手先との協力によって、自分の事業領域の拡大や自分の事業競争力の増大が図れる。したがって提携が最も良い。

防御とは、自社の事業領域に進出してくる相手があったとしても、自社の特許権は何も用いずに、相手から特許権で攻撃を受けたときにそれに対処すると言うものである。これでは、事業を特許権で守るという特許権の基本機能が発揮できていないので最も下策である。

なお、攻撃をする場合には、短期間に完遂し、相手に特許実施権を与えないことを基本方針とすべきである。

堅牢な請求項の作成が特許戦略の基礎である

いくら特許戦略を練っても、使用可能な特許権を保持していなければ、無意味である。表層的にいくら広い権利範囲を持った特許権を保持しても、請求項が脆弱では、権利行使に使用できない。請求項が脆弱になる原因は次のようなものがある。

  • 請求項が未定義の用語を含んでいる
  • 請求項が曖昧な概念の用語を含んでいる
  • 請求項が実施の要諦と対応付けにくい用語を含んでいる
  • 請求項が複数の意味に解釈できる構成要件を含んでいる
  • 請求項を構成する構成要因の間の関係が、明確に表現されていない
  • 請求項に、他の構成要件と関係を有しない、浮いた構成要件が存在する

特許権侵害訴訟で争う場合は、請求項の権利範囲について特に上記のどれかに該当する事柄について争っている場合がほとんどである。

訴訟に至らずに権利行使に成功すれば、費用対効果が向上するわけで、その意味からも強靭な請求項を作成することが特許戦略の基礎と言える。

組織パワー向上のための知財部門の組織構造とは

組織パワーを向上させるためには、次のような性質を有するべきである。

  • 知財部門が、技術開発、事業企画、営業、生産の現場の生の情報が入手しやすいこと
  • 出願、権利維持や放棄、権利活用、契約等における意思決定を迅速に行えること
  • 3年から10年先の技術や事業の予測に基づいた、中長期的な戦略の立案や実行が行えること
  • 権利活用やリスク対応についてのノウハウが組織に蓄積できる程度のサイズの仕事量が確保できること
  • 能力や実績がない人材が、予算配分、人事やルールの権限を持ってしまうような、官僚組織が発生しないこと

これらを実現するための理想的な知的財産部門の組織とは、企業の中枢に集中配置されているが、他の部門との距離が近い物理的なロケーションに配置され、現場のメンバーと密接に情報交換し、現場の仕事が成功することを目的に業務を行うと言うものである。

そして、事務局的なメンバーを知財部門に配置する場合には、それらのメンバーには予算配分や人事、ルールの権限を与えないようにすべきである。これが官僚発生を防ぐために決定的に重要なことである。

また、 性質上、特許権活用業務は工数がかかり、ハイリスク・ハイリターンである。

一方で、事なかれ主義のまま知財業務を実施することも可能である。相手に攻められるまでは、なんらかの理由をつけて権利行使を避ける、訴訟を避けると言う事は可能である。

そのような行動が評価される人事制度になってしまうと、実質その企業の知財能力は大きく低下していく。 特許権の活用とは、例外的なマイナー業務とみなされるようになってしまう。そうすると支払っている特許年金は全て無駄になり、組織、社員の中での知財の重要性が低下していく。

そして、相手に攻められた瞬間に非常に大きなものを失ってしまう。

そうさせないために、知財人材の評価は、 リスクにチャレンジして成果を出させるような評価と処遇にすべきである。

同時に、IPオフィサーとして配置すべき人材は、企業の戦略を十分に理解でき、社内外で自ら積極的に行動でき、本質抽出能力があり、何より、社内で意思決定が出来るような重要なポジションにいることが重要となる。

知財部門の組織パワーを劣化させる悪循環の罠

基本特許に注力することなしに、知財スタッフを増員し、特許出願件数を増加させるとリソース消費の割に成果が出ないということになってしまう。

なぜならば、事業貢献に結びつかない発明を数多く出したところで効果はなく、時間の浪費になるからであり、さらにはそういう価値観が組織に定着してしまう。

発明を改善提案の一種として位置づける特許マネジメントは、この予備軍となる。特許とは、数よりも、質の戦いなのである。

競合排除のための特許攻撃

競合製品を市場から排除するためには、相手企業の攻撃対象製品の必須機能をカバーする特許権を用意しなければならない。そうでなければ、簡単に軽微な設計変更やオプション構成の変更で逃げられてしまい、攻撃対象を排除できない。

市場からの排除を狙っての攻撃を特許権で行う場合、相手も必死でこちらの特許権を無効にしようとするし、権利範囲を狭く解釈するなどの主張をしてくる。感覚的には、相手方の対応が成功する確率は特許権1件あたり70%である。

つまり、1件の特許権を攻撃に用いるだけでは、成功確率は30%程度である。そのため、攻撃を成功させるためには、攻撃対象製品の必須機能をカバーする特許を3件以上持つべきである。これにより、成功確率を7割弱まで上げることができる。

攻撃を担当する組織には、相手製品の侵害の証拠と侵害製品の製造販売の形態と規模を様々な情報を総合して示す情報力と分析力がなければならない。 特許文献を読めるだけでは、不足となる。

用意した特許戦略を行使するタイミングは、相手の特許戦力が弱く、相手製品を市場から排除することが自社の事業にメリットを与えることができるという条件が揃えば、できるだけ早い方が良い。 いちど特許戦力の行使を開始したら、事は迅速に行わねばならない。時間が経てば相手の対策が強化されるからである。

競合排除のための攻撃は、相手方が対象製品を市場から撤退させない 限り、訴訟を行うことを計画していなければならない。間違っても訴訟を避けるという方針を事前に設定してはならない。そうしてしまうと、責める力が弱くなり、負ける可能性もあるためである。

データから見る知財行使

1件の特許での攻撃では勝率は30%

3件では勝率は65%

4件では勝率は75%

侵害訴訟に3件以上の特許が用いられることが殆どない

→ これは3件以上の争いの場合は訴訟に行く前に合意していることが多いことを示している。

28%が特許無効で敗訴している

44%が非侵害で敗訴している

→ 特許権で攻撃を受けた場合、まずは非侵害との論の成否を検討し、その後に無効の論を検討したほうが、コスト節約になる。

ただし、無効論を出してから権利範囲を狭めさせてから非侵害を狙いに行くのも手。

また、経験則として...

特許出願の中で権利化させるものは 30~60%

特許権の中で権利行使を検討するものは 1~5%

権利行使した特許の中で、ロイヤリティ獲得や契約締結により事業貢献をするのは 20~50%

特許の無効化はよくある話

絶対に無効にならないと言い切れる特許権はほとんど存在しないと思う。なぜなら、特許権の権利化の過程で参照される公知文献は本当に数少ないからである。

すなわち、審査の過程で参照されていない文献が山ほどある。非特許文献、特にハードカバーの書籍、外国の資料(特に英語以外の文献)については参照されていない可能性が非常に高い。

したがって特許権の権利行使を受けた側が必死になって、多額の費用と労力を注いで日本語のハードカバー書籍、中国語、ロシア語やドイツ語、韓国語の資料などを探せば大抵の場合は無効資料が見つかるものである。

 

 

出典:

特許戦略論 ~特許戦略実践の理論とノウハウ~ (mag2libro)