アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した(ジェームズ・ブラッドワース)
筆者はイギリス国内において、実際にamazon、訪問介護、Uberの現場で働いてみた。
イギリスでは1950年以降、地方では炭鉱、造船などの製造業が政府の政策の影響を大きく受け、衰退した。一つの炭鉱で1000人規模が文字通り命がけで働いていた街が、突然産業を失い、一夜にして衰退した。その代わりに積極誘致したのがamazonやテスコなどの倉庫である。
政府は仕事ができた、と言い、地元住民も始めは歓迎した。しかし、その実態は...
ということを実際の体験、ヒアリングから記載した本。日本のこのような現場が同じようにシビアかどうか、私には全くわからないが、少なくともイギリスにおける現実を深く理解することができた。
学び
Amazonの倉庫を牛耳っているのは派遣企業。ピンはね、雇い止め、一方的解雇など、産業革命の時の労働者いじめのようなことが現代でも起きている。
Amazon側のバスの運行が遅れても労働者の責任、風邪をひいたら減点、トイレは倉庫に一箇所でそこに行くのもサボりとみなされて減点、休憩時間にはボディチェックのための行列ができ、実際の半分も休憩ができない。そしてそれはご飯を食べずに8時間走り回ることを意味する。減点がいくつか貯れば、翌日から仕事はなくなる。
極めつけは、派遣会社が何だかんだ理不尽な理由をつけて給料を支払わないこと。その日暮らしの若者がamazonでの仕事を夢見てスタートするものの、数週間で家賃が払えず、路頭に迷うことになる。移民はなおさら派遣業者に交渉することもできず、泣き寝入り。
想像を上回る過酷な現場である。
この50年の間、労働者の権利を強めたイギリスから製造業は去り、炭鉱が閉まり、仕事が激減。穴を埋める期待を持たれたAmazonやテスコでの仕事は最低賃金かつ人間の尊厳を保てない仕事ばかり。
しかし、住民はそれにすがるしかない。実質仕事を選べる環境にはない。
東欧などからの移民が安くても生きていくために仕事を取るために、雇い主は労働力に関して一抹の不安も感じない。そのため、一向に仕事環境が改善されない。求職需要があるため、供給側が改善する意欲が出ないためである。
それにより、自分たちの苦境は移民のせいだ、EU離脱だ!という発想が、地方部で特に起こっていた。結果が、Brexitであろう。
ちなみに、amazon UKのサイトを見るに、上記はあまり想像できなかった。実態はどうなのだろうか。
訪問介護の現場も極めて悪質である。雇い主は、顧客(老人)、社員(厳密に言えばミニマム0時間契約なので、社員というよりはアルバイトと同じ契約社員)の双方から搾取する。
社員には移動訪問時間を無視してノルマを与え、移動時間の給与は払わない。ノルマを達成できなければ即座にクビになるため、必然的に許容滞在時間は15分程度になる。その間に介護士は汚物の処理やら食事の介護やら身の回りの支度やらをするわけなので、時間が足りるわけはない。
結果、「今日はトイレは大丈夫ですよね?」「お風呂はいいですよね?」のような誘導質問がなされ、お年寄りは介護を実質受けられない。介護士も泣く泣くそのような対応を取らざるを得ない。
それでも家賃と食費のギリギリの給与しか支払われないので貯金もできず、生活から抜け出すことはできない。そして、ここでも謎の天引き、給与未払い問題、が発生している。
そしてUberである。このUber問題はよく日本でも聞く話かと思うが、更に詳細は過酷だった。
「顧客がいます、引き受けますか?」という15秒表示されるボタンを押す確率が80%を切ると、強制的にログアウト(=もうUberドライバーができなくなる)される。それが、自分のいるところからどんなに遠い顧客の依頼であろうと、である。
そして、顧客からのレーティングが4.5を切ると、呼び出し、研修、場合によってはドライバー権利剥奪になる。ポイントは、酔っ払った顧客、イライラしている顧客、異常に急いでいる顧客、など誰からの評価か、ということは関係なしに平均値で判断されるということである。
雨の中、Uberを30分待ったあげくようやく乗れた顧客は、★5はつけないだろう。しかしそれはドライバーのせいではなくUberのせいである。しかしそのような主張はAIの仕組みの前では無力である。
車代はもちろん自分持ちだし、ガソリン代は払われないし、顧客単価は(Uberの値下げとともに)下がる一方だし、雇用ではないとUberが主張するために保険もない。しかし、実態は会社員以上に会社に縛られている。休憩する権利すら実質与えられない(アクティブの時間が少ない事自体が減点対象になる。)
上記のいずれにおいても「求職者はたくさんいる」という構図が状況を悪化させている。雇用主が改善するインセンティブが働かないためである。
移民がいる、ということも一つに理由であることは間違いないが、まともな雇用主を減らしてしまった、という政府の政策に大きな原因がある、というように本書を読む中で感じられた。
過去を知るホームレス、廃れた酒屋の店主、などの話がその経緯を物語っていた。
以前別の本でもグラスゴーという街がどうして衰退し、自殺者が急増したのか、という理由に、政府による公共住宅の罠が挙げられていた。コミュニティの破壊、仕事の喪失、という2つが重なることで、人間は精神的に厳しい生活を強いられるということだろう。
↓これでした。
もちろんこれだけが事実ではないとは思うものの、非常に感銘を受けた。
もちろん本書では、よりリアルな描写が鮮明にイメージできる粒度で記載されているので、一読をおすすめいたします。
出典