必読!おすすめビジネス書のご紹介

ビジネス書、何を読むべきか悩みますよね。ランキング上位を買ってみても、案外学びにならなかったり。そんな思いから、おすすめの本の概要を書くことにしました。外資系戦略コンサルなどで勤務した私が、おすすめの本をご紹介します!参考になれば幸いです!

ザ・会社改造(三枝匡)

ミスミという会社に12年間にわたり仕掛けてきた数々の改革が、事業モデルの革新を引き起こし、300人の日本企業が10,000人のグローバル企業に拡大した話です。それを社長として導いた著者(三枝匡)が一人称で書いたほぼノンフィクションの経営書です。
 
とても学びが多く、本ページも超長文になってしまいました...
最後まで目を通して頂けると嬉しいです。
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ザ・会社改造--340人からグローバル1万人企業へ (日本経済新聞出版)

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※文庫本もあります

プロ経営者とは

プロ経営者と呼ばれる人たちは、一体どういった存在なのだろうか。有名なカリスマ経営者と呼ばれる人でも、1つの会社の経験しかないなら、その会社の経営者に過ぎず、そこでしか通用しない経営をしているのかもしれない。私が目標にしている定義は、
  • どんな状況の会社に行っても、短期間で「問題の本質」を発見できる人。
  • これを幹部や社員に「シンプル」に説明できる人。
  • それに基づいて幹部や社員の心と行動を「束ね」、組織の前進を図れる人
  • そしてもちろん、最後に「成果」を出せる人
 
そういうプロ経営者は、
  • 業種、規模、組織カルチャーなどの違いを超えて、「どこの企業に行っても」通じる汎用的な経営スキル、戦略能力、起業家マインドを蓄積している
  • 過去に、修羅場を含む豊富な経営経験を積んでいる。難しい状況に直面しても、これは「いつか来た道」、「いつか見た景色」だと平然としていられる
 
もしあなたは経営者を目指すなら、経営者の仕事は独立した職業だと割り切り、遅くとも30代中頃から先はもっぱら経営者としての技量を上げる生き方を探さなくてはならない。

  

社長に就任した目的は、経営者人材の育成

新社長になってから記者会見を受けた。そこでの回答は、「私が社長に就任する第一の目的は、経営者人材の育成です。第二の目的は、事業成長を目指すことです。ミスミを、日本初の新しい国際企業に育てていきたい。
私は16年間追い詰められた日本企業の事業再生に取り組む仕事をしてきて、今の日本経済の不調は日本の経営者人材が枯渇しているために起きていると感じています。」
 
社長としての目的を、会社としての姿ではなく、社員の育成と答えるのは珍しいと思います。しかし三枝は自立して成長し続ける組織を作りたかった。そのためには人材育成が最重要になるということを過去の経験から把握していたということでした。
 
 

社長就任後は、自ら現場に降りていく

ミスミは放任主義だったため、役員が社長に報告をするという文化がなかった。
これも三枝にとっては、いつか見た景色であった。この事態への対応は簡単だ。待っていない。社長室から出てズンズン社内に入っていく。こちらから声をかけ、また幹部をどんどん社長室に呼び込む。お互い動物園と同じで、接していれば馴れてくる。

 

改革は全体像を描いた後、一つ一つ1点突破で改革していく。

ミスミを強くするには、フロントエンド改革、バックエンド改革、仕事の質と効率、成長の加速、4方向全てをバランスよく強化する必要があった。このチャートはそれ自体が戦略マップだった。しかしこれらのテーマは何もかも1度に手をつけ、同時並行的に「会社全体を少しずつ底上げ」して進めていくという発想は邪道である。
 
改革と呼ぶ限り、漸進的アプローチは奏功しない。戦略的経営者は必ず、改革の入り口を絞り、一つ一つの改革ではダラダラせず突出的な成果を狙う。そして一つに目処をつけたら、次に進んでいく。

  

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ミスミの改革マップ

 

1枚目、2枚目、3枚目

リーダー能力の切れ味は、「3枚セット」のシナリオをいかに的確かつ迅速に作るかにかかっている。
 
1枚目は、複雑な状況の核心に迫る「現実直視、問題の本質、強烈な反省論」
2枚目は、1枚目で明らかにされた問題の根源を解決するための、「改革シナリオ、戦略、計画、対策」
3枚目は、2枚目に基づく「アクションプラン」
である。
 
優れたリーダーは、もつれた糸を解いて、直面する現実がどのような構造になっているのかを理解するのが速い。本質に迫る謎解きが的確なのだ。
頭の中で混沌としている現状の糸の塊を原因と結果の関係、つまり因果関係に分解していく。見つけた糸を、悪い影響を生んでいる因果律と、良い影響を生んでいる因果律、どちらでもないものに分類をする。そして最後に、悪い因果律の中から根源となる問題を選び出す。それが見つかったなら、文字通り解決の糸口が見つかったことになる。
結果として、優れたリーダーは誰よりも先に「問題って、要するにこういうことじゃないの?」というセリフを言う。
 
三枝は、社内会議でもこの用語を使い続けたため、現場の社員も1枚目、2枚目、3枚目で言葉が通じるくらいに浸透しました。1枚目が弱い、というだけで、現状の課題を直視できていない、見抜けていない、ということが伝わるようになったことで意思疎通がしやすくなり、それらを重視するというカルチャーも生まれました。

経営者人材を育成するためには、急がば回れ

三枝は、極力答えを教えずに、部下が考えるのを待ち続けた。自分でやれば3日で終わる仕事を、3ヶ月も待つこともあった。
「ミスミは過去、外部コンサルタントを何度も導入していました。しかしその中で実現しているものはほとんどありませんでした。コンサルタントは時間で商売をする人たちです。プロジェクトに社員を参加させても、社員がレベルアップしてくるまで待てません。だからコンサルタントが引き上げた後、社員の自力で考える力が著しく向上したかと言うと、それほどでもないのです。」
「ですから、ミスミの幹部や社員に、簡単に道具や答えを与えてはいけないんです。少しは自分でのたうち回 rえ、と。経営戦略のことなど深く考えてこなかった連中に、自分で考える癖をつけてもらうには、それしかないんです。」
 
三枝はいつもあるところまでは部下に任せて自分で考えさせた。上空から見ていた。時々現場に出没して除いては離れ、離れてはまた近づいた。部下が行き詰まりの限界に近づいたと思えば、上空から前より、破綻する「直前」で介入をする。それが彼の部下育成スタイルだった。

 

介入した際も、大きな方向性を示し、今後の具体作業を部下たちがわかるように話をし、そしてさっと去っていきます。それにより部下も最後まで自分がやり遂げた、という気持ちを持ち続けることができます。
介入しても部下の自主性を傷つけないようにする、という絶妙なところが重要となります。
 
 

ハンズオンは、余計な作業を捨てさせるために行う

経営リーダーは現場の実作業に触れつつ、部下よりも1段高い視点で問題を捉えなければならない。部下が過度の回り道で消耗しないように、タイミングを見計らって「考え方」と作業の「出口」と方向を指し示す。では余計な作業は捨てろと言うサボり方を教えてあげることを意味する。ハンズオンはリーダーシップの要諦の1つである。

 

PPMは組織に浸透し実行されやすいため、使いやすい。

戦略策定の下記のステップにおいて、決定的役割を果たしてくれるのがPPM(プロダクトポートフォリオマネジメント)である。
1.全社戦略としての戦略事業の絞り
2.選んだ戦略事業の中での戦略商品群の絞り
3.選んだ戦略商品群の中での戦略商品の絞り 

 

ここまでで、全社員に戦略商品が何かを説明しきらなければ次に進めません。戦略を浸透させ、現場に実行してもらうまでがゴールであるためです。
そして、そのためには使うツールはわかりやすく、かつ現場の社員でも使いやすくしなければなりません。三枝さんが言う通り、確かにその点においては、PPMがベストに感じます。
 
その後の戦略策定の流れは次のとおりである。
4.戦略商品の対象市場における戦略的セグメンテーション
5.狙ったセグメントへの営業アプローチミックス
6.そのミックスの中での営業マンの活動の効率管理
7.その結果としての顧客別売り上げの進捗管理
8.その成果を見ながら、トップの戦略事業レベルまでフィードバックする、戻しのサイクル
 
キーワードは「現場」だ。PPMをトップだけの道具にせず、事業ラインのミドルたちが完全にそれを理解し、自分の業績を上げるための道具として使うことが重要なのだ。

 

本来、自社の戦略を立てるとき、自社の商品が競合の商品に対して勝っているか負けているかという競合の要素を除外して考えることはできません。
しかし、三枝さんが指摘するのは「特に落ち目の集団では、社内に目が行きがちになる。そして競合を忘れながら戦略を作ってしまうことが起こりがちである。」ということです。その点、PPMを使うことで、競合の要素を自動的に盛り込むことができ、かつ同時に市場全体が伸びるのかということも盛り込むことができるということが大きなメリットになります。
 
しかし、注意点として「PPMでは事業シナジーが表現されていない。」とも述べています。そのため右下の負け犬コーナーにある商品群が理論通り撤退すべきかどうか、という点については慎重に検討すべきです。
 
 

戦略とは何か。

「戦略」とは何でしょうか?改めて聞かれると難しい。それが、とてもわかりやすく書かれていました。

戦略とは、
「戦場・敵」の動きを、
「俯瞰」し、
「自分の強み・弱み」から、
「勝負のカギ」と「選択肢」を見極め、
「リスクバランス」を図りつつ、
選択と集中」によって、
「所定の時間軸」内で勝ち戦を収めるための、
「ロジック」である。そして、
その戦略の「実行手順」を、
長期シナリオとして、「組織内に示す」ものである。
 
まだ実行していないことを描く戦略は常に「仮説」であり、その良し悪しを判断する決め手は
「論理ロジックの強さ」である。

 

これらを忘れ、競合の動きを無視して思いつきで戦略を決めたり、組織に実行不可能なものを戦略として作ったりするのは、事業の害になります。まるで、北を指しているはずの方位磁針が西を向いているようなものであり、皆が違う方向に猪突猛進してしまいます。
 
 

大事な事は、顧客が認める強みと弱み

戦略を組み立てる上で欠かせない作業として、自社に感じてもらっている価値を見極めること、があります。
顧客が認めるミスミの強みを強化し、弱みを減らす方策を整理できれば、商品を伸ばすための打ち手になる。自分たちが価値があると思っていても、顧客側で本当に価値を生んでいるとは限らない。そこで、自分たちのモデルに対し、顧客はどんな価値を感じているのかを書き出していった。
しかし、それでは競合相手との価値の比較がわかりにくい。○✗方式の比較では、最終的にどちらが勝っているのか、結論が見えにくい。そこで、これらの価値を数値化できないだろうかと考えた。そしてミスミ独自の価値マップが誕生した。
 
今までになかったモデルを作成し、全社に発表し、使い始めると言う事は会社のカルチャーを変えるということにつながる。そのモデルの中に、競合の要素を入れることで自然と各自が競合のことを意識するようになっていく。その観点で独自のモデルを作成することが重要となる。

 

粗利益と営業利益の違いが現場まで浸透しているか

例えば原価1000円、粗利益50%の商品が営業マンによって必死に拡販されている戦略商品だと仮定しよう。平均すると全国の営業マンの時間の3分の1を、1つの商品の拡販に使用していることが判明した。その人件費と営業費用は1個あたり300円の経費になっていることがわかった。この商品の粗利益500円の半分以上が使われていることになる。
 
また、カスタマーセンターでは、この商品は技術的に難しい商品なので顧客からの問い合わせやクレーム処理が多いことがわかった。オペレーターたちの仕事時間を測り、集計してみると、この商品には1個あたり60円の手間がかけられていることがわかった。
 
配送センターでも、梱包の手間がかかっていることがわかった。配送料を加えるとロジスティクス部門ではこの商品には1個あたり370円かかっていることが判明した。
ここまでの費用の合計は730円。という事は粗利500円の商品は、営業利益では230円の赤字だったことが判明した。

 

三枝さんは、業績が悪い企業ほど、どの商品の営業利益が1番高いかということがつかめていないと言っています。この例のように粗利益だけを見てそれを拡販指示を出したり、そもそも利益は何も考えずに売り上げだけを考えていたり。各商品の本当の利益率を算出するために後述のABCが使われることがありますが、実運用に落とし込むのはなかなか難しいとされています。厳密にやる必要は無いですが、少なくともどの商品の利益率が高いかという概算は付けられるようにしておきたいところです。
 

ABCの実務での活用

ABC(Activtity-Based Costing:実際に掛かっている時間をベースにコストを計算する手法)をミスミに定着させるには、多くの社員がABCデータを仕事の中で十分に使いこなすようにならなければならない。
ミスミでは、ABCを事業の戦略策定ツールに落とし込むことで、「ABCから得られる情報が、ミスミでの戦略策定に不可欠なものである」という認識を一気に社内に広げた。その上でFA事業部で作り込んだABCシステムをすべての事業部に水平展開し、全社員がそれを使いこなせる体制を作り上げた。
 
このソフト開発と社内普及は、ファイナンス室ではなく、社長直属のスタッフである経営企画室が担当した。これまでのABC導入の失敗例や歴史を踏まえて、個々の商品の原価に無関心になりがちなファイナンス室の任務から切り離し、ビジネス、事業系の人々に推進させると言うのが狙いだった。
構築には多くの社員が参加した。そしてソフトが完成すると、全社員を対象にしたABCナビゲーターの研修が開始された。実用性を担保するために、ミスミでは初めから「精緻さと簡便さのバランス」「サボりを入れること」を重視した。

 ABCは概念としては素晴らしいものの、その算出の大変さから、実用性に疑問視がつけられる印象です。そこで「サボりを入れる」「概算でいい」ということをトップ主導で指示することで、実用性が高いものが出来上がりました。「実効性」はとても大事なポイントと思います。

後発の企業は万全の態勢で一気呵成の勝負を仕掛けるべし:ミスミの中国進出

劣勢ないし後発の企業が中途半端な体制で新商品や新技術を売り出すと、かえって競合にアイデアを与え、競合反応に早々にスイッチを入れることになりかねない。結果、追い抜かれて敗退することもある。
こちらが水面下で万全の準備を進め、満を持して一気加勢の勝負を仕掛けることが重要だ。事前の市場テストが必要なら、目立たない市場の片隅でミニマム規模かつ無音で行うべきだ。
 
ミスミにおける事例では、この逆を中国市場で行おうとした責任者に対し、三枝さんは「お前は、会社をつぶすきか!」と怒りました。担当者は当時ここまで考えていませんでしたが、もし中国企業にアイディアだけ与え、ビジネスを先に構築されてしまえば、いずれそれが日本にもやってきてミスミ本体の事業が潰されかねないのです。それくらい、力を持つ他国に攻め入るというのは慎重に行うべき、ということです。
 
 
結果、カタログ発行を一年近く延期することに決めた。その決定は、社長と言う権限者が現場に近づいていたからこそ、その場で瞬時にできたものだった。典型的な「制約条件の解放」のシーンだった。
関係者を縛っている社内常識や制約条件を思い切って取り外してやると、彼らの思考はがらりと変わり、組織を新しい行動に向かう。停滞した組織ではそれができる強い権限者が現場近くにいない。契約条件からの解放が小さすぎると効果は出ないし、大胆すぎると代償が大きくなる。そのさじ加減は現場の心理を熟知していないと間違える。制約条件の解放は形がアートだと言われる最も微妙な判断の1つであるとともに、経営者冥利に尽きる行為の1つだ。

 

創業社長が40年もリードしていた会社には、多くの制約条件がありました。上司の言うことは絶対であったり、現地に進出するのであれば、本社のフォローは借りずに、かつ現地の企業と何とかしなさい、であったり。それらの制約条件をまずは見つけ、取っ払うことができれば、現場の力は大きく強化されます。制約条件がなくなったあとは、例えば「現地企業を探すのではなく、日本の取引先に現地進出してもらう」などのアイデアの種を与えることで、大きな飛躍が期待できます。
 
 

ビジネスプランシステム

私は、ミスミのすべての事業を対象に、会社の制度として「ビジネスプラン策定システム」を導入した。狙いは、組織論と戦略論を「一体化」した制度として定着させることだった。多くの日本企業ではいまだに組織論と戦略論を別の問題として扱っている。
 
事業再生の仕事に挑んでいた頃、私は再生の対象となる会社で経営者人材を育成する手法を探し続け、やがて答えを見つけた。それが「ビジネスプランを軸とする事業経営」だった。組織論の中にビジネスプランが位置づけられていれば、組織論と戦略論の結合が起きる。そういう制度でないと社員が戦略を考える力量は上がらず、事業のツッコミも出てこない。
 
したがってミスミでは、ビジネスプランは研修ではない。血を流す現場の戦いの一部だ。事業責任者が、生の経営方針を立て、実際にそれを実行していくのである。そうすることで座学の研修では到底及ばない生々しい学びが得られる。
ミスミではビジネスプランが、事業チーム、事業部、企業体の各レベルで作成される。例えば事業チームのビジネスプランについて。
まずビジネスプランは誰のために書くのか。それは自分のためである。そして人を説得し、自分の自由裁量の範囲を決めるために書く。計画期間は4年間で、1年目の数値はそのまま今年度の予算であり、2年目の数値は本人がコミットメントを誓うものである。3〜4年目の数値はどこまでいけるかわからないが「いま描けるベストの計画」である。
ミスミでは毎年12月から3月の4カ月間がビジネスプラン策定のシーズンだ。特に前半の2ヶ月は相当の時間を取られる。
 
第一ステップとして、戦略の骨太メインストーリーを組み立てる。この段階では部下が考えたことを上司と1対1でディスカッションする。出発点になる「1枚目」が重要だからだ。
この骨太メインストーリーを上司と部下が合意するミーティングを、40%審議と呼んでいる。それは、この骨太メインストーリーが完成すれば、ビジネスプランの40%位ができたとみなされるためである。
その関門を通過したディレクターは、骨太メインストーリーに沿って具体的な戦略ストーリーをPowerPointで作り始める。自分の事業の<1枚目→2枚目→3枚目>を説明していくのだ。
 
誰もが相当に考え込む。皆が夜中までがんばり始める。ビジネスプランは、上司と部下を熱くする道具でもある。重要な戦略要素をしっかりカバーすることが重要だ。と同時にストーリーがシンプルでないと人々は熱くならない。
70%位出来上がったと思われる段階で、会社の正式な審議が行われる。事業部長が主催するその会議を70%審議と呼ぶ。他部門の人も聞きに来ることができる。他部門の事業部長やスタッフ部門の室長などの数名が審議委員として任命され、発表された内容が足りなければ却下され、指摘した是正事項が「指導書」として本人に渡される。
 
最終審議は100%審議と呼ばれている。ディレクターは「何を考えたら戦略を考えたことになるのか」何度も問われる。ミスミでは「実行者自らが戦略を作る」が絶対条件であり、「勝ち戦のストーリー作り」が組織論や人材育成論と結びついている。
 
また、ビジネスプランは数字を求める作業が主眼ではない。戦略ストーリーが肝要だ。競争相手は誰か。勝ち負けを決めている要素は何か。それに対して自社の強み・弱みは何か。そうした施策を経た上で、経営リーダーとしての事業戦略は何か。
これらを通じて、社員が経営者目線、戦略目線で原点に戻り、問題点を広く探索し、自ら修正してそれを実行に移す。やってみたらうまくいったり、ダメだったりすることから、事業責任者は新たな学びを得る。

 

ここまでの計画を各担当者が作る、というのは会社にとっても大きなコストと思います。しかし、それをやる中で次世代の経営人材が育っていく、そして、経営者として必要と言われる「決断力」「経験値」が高まっていくのだと感じました。ミスミが本当にどこまでやりきっているのかは私にはわかりませんが、これを本気でこなしている社員は圧倒的なスピードで成長していくと思いました。ただ数字を積み上げたなんちゃって事業計画を作る、というのがよくある例だと思いますが、「大事なのは数字ではなくストーリーだ」、というのはとても共感できます。
 
 

質問を通じて問題の本質を探る

カスタマーセンター立て直しのため、三枝さんはカスタマーセンターを視察に行き、センター長と会話をしました。そこでカスタマーセンターの効率が悪いという課題を持っていた三枝さんは、人員構成について鋭い質問をしていきます。このようにして問題の本質を探っていくのか、と感じました。

「どういう人員構成で働いているんですか?」
「メインは派遣社員に頼っており、社員は少ないです。」
派遣社員に頼っているんじゃ、転職率が高いでしょう?」
「はい、今いるオペレーターの中で入社1年未満が半分です。」
「それでは、いくら頭数がいても戦力にならないですね」
「はい。新人は一人前と言えるようになるまで1年はかかります。ベテランが教えるのですが、早々にやめてしまう新人もいるのでとても無駄があります。年中採用しています。」
「指導はどうやっているんですか?」
「オペレーターの教育はOJTでやっています」
「日本企業がOJTと言う時は、何もやっていませんと同じ意味のことが多いですよね」
「はい、実はその通りなのです。」
 
センター長はこの短時間で問題の核心についてくる三枝の質問の鋭さに驚いた。

 

厳しい決定事項を伝える際にも、現場は不安にさせない

カスタマーセンターの集約を発表した際、廃止になる拠点では集約の準備が整う前に人が減り始めて、各センターは壊滅的な状態になるかもしれないことを、三枝は百も承知だった。
そこで、皆を見渡して一呼吸置いていった。
「私はここではっきり言う。私は、あなたたちの雇用を完全に保証します。ミスミの社長が約束します。センターがなくなっても、皆さんにミスミの社員としてやってもらいたい仕事は営業所にたくさんある。いいか、みんな。だから退職は一切、考えないで欲しい」
 
これにより、社員本人の深刻な心配に対しては先手を打って答えたものの、彼女たちは必ず次の疑問に向かう。それに対しても今ここで先手打っておかなければならない。
 
「1つだけ、皆さんに頼みたいことがある。今日の話はこの部屋にいる我々限りだ。業務委託先の会社にこの方針を今の段階で打ち明ける事はできない。なぜなら具体的な計画が何も固まっていないからだ。今ここで君たちに打ち明けている理由は、その計画作りに皆の協力が必要だからだ。ただしこれだけは約束する。ミスミは委託先やその派遣社員にだまし討ちをするつもりはない。計画が固まったら、きちんと話をして予告期間を設ける。委託先と交わしている契約は最後まで遵守する。」

 

現場の社員が気にしている2点、つまり自分たちの処遇と、自分たちが普段接している派遣社員の処遇に対して、トップとしてコミットメントを出すことで、仮に将来的にネガティブなことになろうとも、混乱や離反が起きる可能性を小さくできました。仁義や義理を大切にするということが人の信頼を勝ち取るという点においてとても大事になるということだと思います。

トップは腹をくくり、現場の制約条件を外す決断をすべし

その後、現場の混乱はなかったものの、オペレーションを集約するチームの不手際により、超非効率なシステムが出来上がり、カスタマーセンターは地方と東京集約拠点の両方が同じ仕事をし続けるという二重投資状態に陥ってしまいました。なんと毎日100万円をドブに捨てている状態になったのです。
その立て直しとして新たな事業部長があてがわれ、その非効率を解消するためのプロセス設計を完成させました。その報告に来た事業部長に対し、三枝は意外な言葉を口にしました。
「武田くん、焦らないほうがいい。実験にはじっくり時間をかけてくれ。期限を気にせず、集約再開は遅れてもいいから、拙速でなくdo it right で行ってくれ。」
 
この言葉により、武田は今、彼にとって最大の重圧となっている時間という制約条件から解放されたのである。しかし、ほっとすると同時に、事業トップとしてその制約条件を外すことを自ら判断し、社長に自ら提案すべきだったと反省した。これは経営者人材として必要な経営的な気骨を意味している。
 
リスクを目の前にしながらも、ボスが腹をくくる。人々の心理を縛っている圧迫条件を取り除いてあげる。それにより、人々がどれほど熱い挑戦意欲をかき立てられるものか。

 

組織が元気を保つための2つのキーワードをうまく共存させる

組織が元気を保つには、2つのキーワードが存在する。
1つは、「組織のマネジメント層がリスク志向で元気」であり、かつその元気が組織の中を伝わって「末端やたら元気」の状態が生まれることだ。それは本社から離れている組織でも、若手社員まで含めた一人一人が生き生きと仕事をしているという状態だ。
もう1つのキーワードは、「戦略的束ね」である。マネジメント層が決断する方針や戦略ストーリーを皆が共有し、優先順位を尊重しつつ外部競合に対して束になって攻めていく。
 
この2つはしばしば対立する概念である。
戦略的束ねが強くなりすぎると、上位者が戦略を上位下達で動かすことが多くなり、個人の自由闊達な行動を封じ込めてしまう。
逆に、個人が自由に動けば、全社としてはまとまりがなくなりかえって全社成長が抑制される。
 
それを共存させるために、組織活性の循環動態論を描いた。
 
1.末端やたら元気を実現する出発点は、スモールイズビューティフルの組織論である。それが社員のエンパワーメントを可能にし、個人の元気の源になる。
 
2.しかし、小組織の数がどんどん増えていくと、組織は2つの病気を発症する可能性が高まる。
1つはチマチマ病だ。社員が上組織の事業スケールに合わせた行動しか取らなくなり、思い切った手を打ちにくくする状態が生まれかねない。
もう1つはバラバラ病だ。独立した小事業の数が多くなり、小組織が独自の動きを強めると、全社の戦略的な統制が効きにくくなる。事業間のシナジーが弱まり、全社戦略の観点からはバラバラな状態に陥りかねない。
 
3.2つの病気が発症した組織を活性化する際の改革の視点は、「戦略的束ね」である。
三枝は社長就任後、全社戦略を明確にして事業を整理した。その上で、事業組織に対しては戦略リテラシーを高めるための教育とビジネスプランによる戦略プランニングの手法を入れ込んだ。会社全体の戦略を明確にし、小組織と会社全体の戦略を整合させるようにしたのだ。
これがうまく実行されると戦略的束ねが会社全体の元気の源になる。
 
4.ところが、戦略的束ねをあまりにも長期間徹底し続けると、トップダウンによる戦略思考が強くなりすぎ、上位下達が増え、組織下部では上を見て行動する習性が強まる。サラリーマン行動が増えるのだ。そしてこれが個人の元気喪失を生み、それが会社全体の元気喪失につながっていく。
 
その解決法は、1の要素の強化に戻ることである。これは、繰り返しているわけではなく、実際は以前の位置よりも1段高いレベルの組織モデルを生み出すことにつながる。そのキーワードは、事業の分権化や、社員の自律性、起業家精神の高揚などである。会社によってはカンパニー制を導入する。あるいは、分社化等の形態について創意工夫ある組織論が求められる。

 

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組織活性の循環動態論

失敗経験を経た人間を生かすべし

従来のミスミの制度では、失敗者は会社を去るのも結構という考え方だった。一方、三枝は失敗こそが人を育てると言う考え方だ。
失敗者を簡単に辞めさせてしまうなら、その会社はその人にお金をかけた上に、「失敗経験」という貴重な財産をその人の転職先にただで与えてしまうことになる。失敗経験を得た人を生かさないと社内の人材は貯まってこない。
もちろん、失敗者に対してはしっかり叱ることが大切だ。そこを甘くしてはいけない。その上で本人が強く反省している限り失敗の件は終わりにして、その人材の温存を図る。

 

生き生きとした組織

事業の成功は、社員の長期コミットメントから生まれる。ミスミ社内の弱肉強食の雰囲気を否定し、皆が落ち着いてリスクに挑む環境に切り替えねばならない。
これをしなければ、大きな飛躍をもたらす次世代の事業は生まれてこないだろう。本当の競争相手は社内でなく社外にいることを意識させ、具体的な戦略手法を導入することがカギだ。
会社は社員に、指導や支援を与える体制をとり、経営者人材の育成を加速させるべきだ
生き生きとした変化創造型組織においては、上司の役割は管理職から、コーチングリーダーへ。社員の職業意識は雇われから、プロフェッショナルへ。評価対象は行動ではなく、結果の追求。報酬は時間給ではなく、成果報酬へ。
そして、褒められる行動はリスク回避と改善ではなく、高リスクなチャンス創造と変革へ。
マネジメント層の経営スタイルは、現状維持とその延長から、戦略の追求へ。
 

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生き生きとした組織
その組織の実現のために、戦略改革と一体で組織改革が行われました。プロフェッショナルを育てるために必要な戦略研修は、社長自らが担当します。やがて次世代経営陣が塾長を担うようになりましたが、いずれにしても、外部研修会社ではなく、高い経営リテラシーを持っている社員が他の社員に教育をすることで意味が出てくるのです。
 
 

若手の抜擢で注意スべきことは、ポジション矮小化である

チャレンジさせようと思い若手を抜擢しても、本人がそれに答える実力を持たず、準備や覚悟が足りない場合は、新しいポジションにふさわしい意識や行動を取れない。自分が直前までやっていた、下位の仕事のスケール感を新しい上位の役割に持ち込んでしまう。それが矮小化である。高成長のために組織拡大を迫られている会社では必ずといっていい位、この症状が進行している。かなり長期にわたって少しずつポジション矮小化が進むと、会社がサラリーマン化する。
 
会社の中で昇進が早い人は、今の自分の部署で「自分がここにいなくても大丈夫」という状態を早く作り出す。自分の後継者を早く育てたり、部署外から獲得したりする。逆に「自分がいないとこの部署は回らない」「自分はここで不可欠な存在」と思っている人は昇進が遅れる。なぜなら、「今この人を動かすと困る」と周囲が思い、また(今の仕事でいっぱいいっぱいなので)上位にあげてもそれ相応の仕事ができないからである。

 

以上、長文失礼しました。小説形式ではあるものの、こんなに学びが多い本は中々出会えません。何度も読み返し、吸収していきたいと思います。