ピクサー流 創造するちから(エド・キャットムル)
組織に創造性を、イノベーションをもたらすためにはどのような文化、マネジメントにしていけばよいのか、のとても良い勉強になる本です。
組織のカルチャー形成の教科書とも言える本ではないでしょうか?
リーダーシップについては、セキュアベースリーダーシップと同じことが記載されています。チームの力を最大限に出そうと思った時、マネージャーはサポートに徹する、というのが最近の主流に感じます。
抜粋と要約
マネージャーは良いチームを、文化を作るのが仕事である
マネージャーは手綱を引き締めるのではなく、緩めなければいけないと思う。リスクを受け入れ部下を信頼し、彼らが仕事をしやすいように障害物を取り除く。そして常に人に不安や恐怖を与えるものに注意を払い、向き合う。それがマネージャーの義務だ。
「正直さ」というのは曖昧さが残る表現である。それを「率直さ」と言う道徳的な意味の小さい言葉に置き換えると、チームが実行しやすくなる。ときにははっきり言い過ぎて問題になるということがあるがそれでも言わないよりはマシである。
互いに素直に批判し合うというのは難しい。仕組みで対策をしていかないと維持できない
ピクサーでは6ヶ月おきにブレイントラスト会議をやっており、その時点までの完成物をみんなで見て批評し合うことをする。ポイントは率直に作品に対して意見をするが、アドバイスには強制力を持たせないというところで。決して人に上から指示をすると言うものではない。
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批評するのは簡単だが、その要因を探るのは極めて難しい。
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解決策を探るのも考え尽くしているチームに任せる方が良い。
どんなに凄い映画も最初はひどかった。これには例外がない。ただブレイントラストを経てどんどん進化していき傑作になる。
素直に発言してよいのだ、という文化を広げることは、リーダーが意識的に行動で示すべき。
社員が失敗を恐れず、それに立ち向かえるようになるためには、リーダーが自らの失敗やその役割を話すこと。それにより社員は安心する。
失敗が起きたとき、犯人を探すのではなくみんなで力を合わせて問題の原因を探るかどうか、それが良い組織かどうかの見極めである。
事あるごとに失敗を受け入れ、そこから学ぶことを推奨する。
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以前トイストーリーの制作中に誤ってすべてのデータを消してしまうってことが起きた。犯人探しをする暇もなくチームは解決策を考えた。偶然子育て中の社員が自宅のパソコンにバックアップをしており、事なきを得た。
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その後も犯人探しをするのではなく再発防止のための対策が考えられた
会社が大きくなると、それに付随する問題も生まれてくる。これも仕組みで対策をする。
ピクサーが大きくなるにつれて、優秀な監督のそばで時間を過ごす新人監督がいなくなってきた。それにより十分な経験を積まずに監督になる社員が増え、次第に問題が増えていった。
そこで当初のように優秀な監督の仕事を間近で見せるような育て方をするようになった。新人マネージャーと熟練マネージャーをペアにしたメンタリングプログラムを開発した。8ヶ月の長期間にわたって一緒に仕事をし、そして話し合う仕組みを導入した。
危機が起きたときの良い点は、マネージャーが会社の理念や価値観について社員に明確なメッセージを送る機会を答えてくれることだ。ピクサーでは制作中の映画に欠点が見つかった場合、1から作り直すことによって映画の品質を何よりも大事に思っていることを社員に伝えることができる
今までは部下から1人の社員として何でも発言してもらっていたが、部下がどんどん増えると自分がそこにいるだけで社員が口調や行動に気を遣うようになった。
会社の内情に通じなくなってきて、自分の視界から無礼な態度や不平を言う人が消えていってしまった。
他人の視点を尊重しよう!というのは簡単なようで凄く難しい。なぜなら人は自分のメンタルモデルと相容れないものを見たときそれを拒絶するだけではなく、軽視する傾向があるからだ
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これは科学的に証明されている確証バイアスと言う概念である。
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1960年代にイギリスの心理学者、ピーターウェイソンが提唱した
ピクサーではチームワークが個人の見解の相違によって阻害されることを防ぐために8つの手法を採用している。
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全員で問題解決を行う、デイリー
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現地調査でつかむ本物の感覚
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制約の力
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新しい事、新しい人は短編で実験する
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観察力を養う
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反省会を行う
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学び続けるピクサーユニバーシティ
2.現地調査
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映画を作成する前、関連するような街やお祭りなどに数週間チームで出かけ本物を体験する。
7.反省会
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数年かかる映画の作成が終了した後、反省会を行う。
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出席者はあからさまな批評をしたがらないため、2つのリストを作らせる
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次回もやろうと思っていることトップ5
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二度とやらないと思っていることをトップ5
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同時にデータを活用し、問題となったような行動やプロセスを洗い出しそれについて議論をする
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社員が直接仕事に関係ない分野も含めて勉強する機会を提供した。
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講師を手配し、社内の会議室で講習会を行う
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内容は彫刻、絵画、演技、瞑想、ベリーダンス、プログラミングなど全て無償で提供した
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これはただ単に勉強することによるメリット加え、普段一緒に仕事をしない社員の間で学ぶことで社内の連携が凄く強まった。
他社と合併するときに、いかに文化を守るか。ディズニーがピクサーを買収するときに気をつけ、実行したこと。
合併によって変わってはならないことを、95項目記載した。福利厚生の面などに加え、文化を守るためのいろいろなものが記載された
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社内のお祭りやパーティー
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従業員に駐車場の割り当てはなく、役職によらず先着順での利用にする
合併後、ディズニーの建屋で創造性や社員の交流を妨げていたような仕切りやデスク配置を、リフォームした。社員が階層を気にして発言しにくかったようなことを全て和らげるために行った。
失敗を恐れずに、また上層部の人の目を気にせずに発言、行動することを徹底させるためには時間がかかった。
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思ったことを言わなかったスタッフを呼んで個別に注意
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管理職と食事をしながら考え方をひたすら伝える。
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ピクサー側の打ち合わせを見学させその様子を体感させる。
社員の視点を引き上げ、コミットメントを強め、社員同士の絆を強めるために丸一日のイベントを実施
会社全体の課題解決を考えるために、社員全員でのイベントを実施した。ノーツデーと呼ばれるイベントには全社員が丸一日参加した。
社長の発案で社員の1割位が設計メンバーとなり、設計をしていった。
事前に各社員から問題と思われることや解決策のアイデアをメールで受け付けた。
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映画の作成コストを10%減らすには?、今よりも半分のコースで映画を作成している数年後の未来があるときにそれはどのように達成されているのか?のような具体的な課題を提示しそれに対するアイデアを募った。
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1人4通に相当する数が集まった。
事前に管理職がそれを振り分け、当日10人ぐらいのグループで1時間ほど議論するに最適な分量で課題を整理した。
テーマごとに部屋を開け、社員はどこに参加をしたいか事前に申し込んだ。設計メンバーがファシリテーターを行った。
当日、幹部メンバーからその日の意気込みを発表した。そこでジョンは自分が社員から手厳しいフィードバックを事前に受け、苦しみながらもそれを受け入れて前に進むことを始めた、と発表し、その日は多くの人が同じような辛い経験をするだろうがしっかり受け止めようと発表した。このおかげでみんなのマインドセットが定まった。
ノーツデーの成功を振り返ると3つの要因に行すると思う
1.明確な目標があったこと。
コストを10%削減するという特定のかつ現実に対処すべき問題を目的としたことでクリアな議論が行われた。
2.会社トップの支持を得たイベントだった。
トップが乗り気でないとわかれば社員は本気で参加をしない。トップが先頭に立ち進めるべきである。
3.ノーツデーが内部から発生したこと。
外部のコンサルティング会社が発案したのではなく、内部の社員から発案されたことが大事だった。自らが会社を変えるために皆が立ち上がったのである。
スティーブ・ジョブズ、そしてエド・キャットムルが大事にしていること
スティーブ・ジョブズは、会社の1番の資産は社員であるとよく言っており、そしてそれを本当に行動でも示していた。
入り口を1つにしたり社屋の中央に社員同士が顔を合わせるような場所を作り、何かの拍子に交流が生まれるようにした。
エドキャットムルが大事にしていること
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リスクを回避することはマネージャーの仕事ではない。リスクを冒しても大丈夫なようにすることがマネージャーの仕事である。
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変化と不確実性は人生につきものである。予想外の出来事が起きたときに回復できる力を養うことが必要である。常に目に見えない問題を明るみに出し、その本質を理解する努力をしなければリーダーの資格は無い。
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人を採用するときにはその時の能力レベルよりも、これからの伸びしろを重視すべきである。
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常に自分よりも優秀な人を採用するように心がける。それが脅威になるとしても
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組織の中にアイディアを自由に提案できないと感じている人がいたらそれは会社の損失である。
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社員が率直に意見を交わさないことには多くの理由がある。その理由を見つけて対処するのがマネージャーの仕事である
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人は波風を立てるようなことを言いたがらないのが一般的である。「自分の考えを率直に言っても良い」ということを強調するために様々なイベントを設ける
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人より後に部下から問題の報告を受けたり、会議で初めて問題を知らされたりすることをけしからんと思うマネージャーがいるときには、対処が必要である。(根回しの文化を作ると文化が壊れるため)
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失敗は悪いことではない、新しいことをするときに必要な成り行きである
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信頼とは相手が失敗しないことを信じるのではなく相手が失敗しても信じることである
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計画実行の最終的な責任を持つ社員は、問題が起こったときに問題に対処することができる権限を与えなければならない。トヨタの行灯のように。
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規則を作りすぎない。規則はマネージャーの仕事を楽にするかもしれないがたいていの社員にとっては屈辱的である。
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制限を課すことで創意工夫が促進される場合がある。卓越性は厄介な状況や制限と思えるような状況から生まれることがある
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並外れて困難な問題に取り組むことで、新しい考え方が生まれる
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プロセスと目標を混同してはならない。プロセスをより良く、より簡単に、より効率的にする努力はもちろん不可欠であるが、それは目標ではない。素晴らしい商品を作ることこそが目標である。
いかがだったでしょうか?詳細事例含め、是非読んでいただきたいです。濃い本なので結構時間がかかりますが、得るものはとても多いです。