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大企業、外資系戦略コンサルタント、スタートアップを経験した私が、今までに読んだ本の中でもおすすめのビジネス本を紹介していきます。この書評が参考になれば幸いです。

SHIFT イノベーションの作法(濱口秀司)

世界で活躍するシリアルイノベーター、濱口秀司さんの論文集『SHIFT:イノベーションの作法』です。電子版しかありませんが、具体的なイノベーションの起こし方というところがとても勉強になります。
 
ちなみに、わたしはこのted talkで濱口さんを知りました。こちらもおすすめです。
 

SHIFT:イノベーションの作法

 

抜粋と考察

企業における非連続的な変化には、シフト(=ずらし)とジャンプ(=飛ぶ)があり、それを意識的に行うことでイノベーションは論理的に作り出せる、という指摘はとてもわかり易いし、誰にでも実践できそうです。
 
ジャンプは今の事業領域から飛び地のエリアで新規事業を始めることである。
 
もう一つのイノベーションの形がシフトである。既存の事業領域や所属メンバーを起点として、商品やサービスのあり方を規定し、市場の新しい認知を得ることで事業価値を高める設計手法である。
シフトは事業のベクトルを方向と大きさの観点でずらすというニュアンスである。
 
以前の「両利きの経営」でも記載があったとおり、不確実性を伴うイノベーションを、堅実に経営したい経営陣に受け入れてもらうのは困難を伴います。
そのため、社内マーケティング(MI)が必要となると著者は言っています。 

イノベーションは不確実性で覆い尽くされているが、それを実行するかどうかは不確実性を最も嫌う経営陣である。

 

経営学が明らかにしてきたほとんどの事は、失敗しないための論理的な解であった。近年の経営層はMBAなどで経営論を学び、いかに確実に失敗しないかを勉強している。そこに不確実性に溢れたイノベーションの実行を決断してもらうことは困難を伴う。

 

大企業だけではなく、60人以上の規模の会社になれば、必ずイノベーティブなアイデアにブレーキをかける経営陣が存在し、ほぼ間違いなくインターナルマーケティング(MI)が必要になる。

 
 
シフトを起こす、ためにはBTCの3つを意識します。これはフレームワークとして暗記しておきたい。
シフトを起こす3つの領域はBTCに分類できる。過去、テクノロジーイノベーションを起こすのが主流であり、その後、ビジネスモデル&テクノロジーイノベーションを起こすように変わってきた。
しかし、最近はコンシューマエクスペリエンスを軸としてシフトを起こさないと、イノベーションにならない。
 
このBTCを頭に入れておくと、日頃からシフトの設計や議論がしやすくなる。
 
では、シフトを起こすだけでイノベーションが起きるのか?そういうわけではなく、イノベーションのための条件として3つ記載されています。
 
イノベーションは少なくとも次の3条件を兼ね備えていなければならない。
  1. 見たこと、聞いたことがない。
  2. 実行可能である
  3. 異論を生む
特に最後の「議論を生む」について、自分が提案したものを誰もが「すぐにでも商品化しよう」と賛成するなら、それは常識の範疇を出ていない証拠になる。むしろ、明確な反対派がいなくてはならない。 
 
イノベーションを阻害する大きな要因である、バイアスについても述べられています。バイアスを認識し、あえてずらしに行くことで、イノベーションへの道がひらけます。
 
専門家ほど強いバイアスを持っている。例えば四角い板にドアノブが付いているときはそれを回して開けると言うふうにバイアスがかかっている。それを意図的に認識し壊しに行く必要がある。
 
まずはバイアスを可視化する。
例えば桃太郎であれば、単独かチームか、正義か悪かと言う軸を考えたときに桃太郎はチームで正義を行うという暗黙の前提が皆にあるだろう。「桃太郎らしくない桃太郎を考える」というお題に対しては、そのバイアスの正反対を目指すことで論理的に達成できる。
 
 
いざ、これはイノベーションだ!と自分で思っても、いきなり全力で市場投入するのはリスキーです。そこで、プロトタイプによる検証が重要です。プロトタイプにも3種類あります。どの目的で実験を行うか、明確にし、目的を混ぜないことが極めて重要、と述べられています。
 
いきなり市場に投入する前に、プロトタイプで検証を行うことが重要である。それを筆者はβ 100と呼んでいる。
検証行う際には目的を明確にし、その目的を複数同時に行わないことである。
  • デザインプロトタイプは外観やUXを理解するように再現する。
  • ファンクショナルプロトタイプは機能を体感させるために再現する
  • コンテクスチュアルプロトタイプはその文脈や物語を伝えるために再現する。広告やカタログなど

 
新しい商品を作る際、ユーザの心を捉えようと思ったら3つのアプローチがある。
よく皆がイメージするのは「スナイパー型」と呼ばれる、ピンポイントでターゲットを狙い打つというイメージである。それゆえに外れやすい。
他にもある程度対象を絞った上で当たりそうなものを複数同時に仕掛けると言う「ハンター型」や、さらに対象を絞り込んだ上で必ずヒットしそうなたくさんのパターンを網羅したものを網目のように投げかける「フィッシャーマン型」というものもある。
「ハンター型」のイメージとしては、今後11インチのタブレットPCが流行るだろう、と経営陣が考えるとき、その商品の検討を独立した複数のチームに依頼し、かつお互いに干渉させないというような方法がある。もちろん初めから類似したようなパターンの商品を企画し、それぞれ同時開発するという方法もあり得るだろう。

 

実際に外部マーケティングを行うとき、誰に何をどのように働きかけるか、を考えます。
商品を販売するときは、最初の100人を圧倒的に満足させると言うことを意識する。無料の試供品を闇雲に配ったり、適当なマーケティングを行うと爆発的に売れると言う事はなくなってしまう。
エクスターナルマーケティング(ME)を行う際は、直接の顧客以外を対象にする場合もあります。
例えば缶入りワインのユニオンワインは、直接の競合とはならないワイナリーのオーナーたちにマーケティングを行った。その結果、影響力を持つ同業者であるワイナリーのオーナーたちがその缶入りワインを宣伝してくれ、一気に販売が広がった。
(普通のワインはレストランで飲むのに対し、缶に入ったワインはアウトドアで飲んだりするので、ボトルワインと競合しない。

 

また、プライシングの考え方もよく誤解がありますが、価格を下げてもシェアが取れるわけではありません。品質を同様(と思われた状態)にした上で価格を下げないと、シェアは動かないのです。消費者は常にコスパを考えています。
 
プライシングを行う際は、価格と価値をプロットしたラインを意識する。価格が違っても同じラインにのっていれば市場シェアは動かないだろう。
一気にシェアを取ろうと思ったら価値に対して価格を下げるオフ ザ ラインと言う戦略を意図的に取ることがある。
 
これも以前「仮説思考」で紹介した内容に近いですが、情報が多ければ多いほどよい、というのは一般的には間違っています。スタート段階、情報が限られた状態で答えを出すことが重要となります。
 
プロジェクトの開始直後に斬新なアイデア、答えは生まれている。
なぜならば手元にある情報がシンプルのためハンドリングしやすいこと、およびその時にある情報は本質的であり核心をついていること。そして情報が少ないためにかえって想像力が働くからである。
逆に言えば、情報を集めすぎたからといって良い答えが生まれるとは限らない。

 

また、これもいくつもの本で述べられている内容に近いですが。チームでイノベーションを起こすためには「巨人の肩に乗る」ならぬ、「他人の肩に乗る」が重要です。具体的な方法として、作業を順次交換するというのが紹介されています。
チームでイノベーティブなことをしようと思ったら、議論よりも個々人の考えをシェアし合う方が大事である。
個々人が途中まで作業を行い、その発想をシェアし、そしてまた個々人が各自で考えて何のバイアスがあるのかを考えだし、そしてまたそれをシェアして最後に議論を行う。
議論ばかりしていると各自の思考はあまり進まないため、チームの成果も何もでない。
下記であれば、Cチームが最もイノベーティブなことを出す傾向にある。
 

 

最後に、シフトのアプローチと、デザイン思考のアプローチが比較されています。シフトのほうが、バイアスの見える化からのイノベーションなので、経営陣への説明がしやすい、というのは納得です。
シフトのアプローチでは、自分たちが考えているバイアスを見える化し、戦略的にそれをずらしていく。
一方でデザイン思考のアプローチでは、ニーズや自分たちのアイデアから出発するため、バイアスに気づかずに進んでしまうこともある。そのためデザイン思考では本当のイノベーションが起こりにくいのである。
 
ちなみにシフトのアプローチでバイアスを戦略的に変えることを説明することは、経営陣の説得をしやすい。それはアイデアを見つける際のフレームワークが明確でわかりやすいからである。 

 

以上、抜粋でした!とても読みやすいので、(ちょっと高いですが)ぜひ!

 

SHIFT:イノベーションの作法

SHIFT:イノベーションの作法