必読!おすすめビジネス書のご紹介

ビジネス書、何を読むべきか悩みますよね。ランキング上位を買ってみても、案外学びにならなかったり。そんな思いから、おすすめの本の概要を書くことにしました。外資系戦略コンサルなどで勤務した私が、おすすめの本をご紹介します!参考になれば幸いです!

両利きの経営 Lead and Disrupt (Charles O'Reilly)

企業は既存事業を伸ばしながら、新規事業を育て、既存事業が成熟、後退する前に次の稼ぎ頭を作ることで、長期に渡り成長し続けることができます。しかし、それがとても難しいことなのは想像に難くないと思います。
その一番の理由は組織文化、とオライリー教授は言っています。
 
既存事業を伸ばすには、「しっかり堅実に」事業を行うことが重要です。一方で新規事業を伸ばすには「いろいろ試しながら柔軟に」事業を行うことが必要です。これらは相容れないことが多いため、うまくいきにくい。そこに着目した筆者が、とてもわかり易く、どうしたらよいかという事例とともに理論を説明してくれます。
クリステンセン教授のイノベーションのジレンマを敵対視?しながら対比するのはちょっと好きじゃないですが、この本もとてもおすすめです。

両利きの経営―「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く

 

抜粋と考察

オライリー教授は新規事業の成長のための「探索」と、既存事業の発展のための「深化」という2つを同じ企業が合わせ持たなくてはならない、それができる企業を両利き(ambidexterity)と呼んでいます。
 
企業活動における両利きとは、探索(exploration)と、深化(exploitation)という活動が、バランスよく高い次元で取れていることを示す。
 
この概念は、認知心理学の研究から出てきたものだ。人間の認知には限界がある。人間である以上これは避けられない。広い世界の中で人間が認知できるのは目の前の一定範囲に限られ、そこにあるものだけで世界が構成されているように考える傾向がある。
 
しかし、現実の世の中には、認知の範囲外にもっと多くのより良い選択肢があるかもしれない。特に環境変化が起きたり、新しいことを試みようと言うときには、狭い範囲の考え方から出て、それらの新しい知見に触れない限り、イノベーションを起こすことができない。 

 

そして、一般的には探索と深化を両立させるのは文化や社員モチベーション、そして戦略の観点から極めて難しいと言っています。
 
企業が効率性とコストに基づく競争で勝利するためには、ばらつきを減らし、漸進型イノベーションの促進に成功する場合であるが、一方で市場が急変する状況下で成功するためには、迅速な実験や適応が最もうまくできる必要がある。そしてこれらは基本的に両立しない。
 
両立させるのがマネージャーの役割であるが、システムやプロセス、会社の文化、従業員のモチベーションなどを調整するのはかなり難しい。
そしてある戦略で成功した調整は、別の戦略には有害になることもある。そうして、既存事業で成功している会社は、イノベーションを起こしづらくなるのである。
  • SAPは大企業向けのERPシステムで成功を収めていたが、中堅企業向けの同じ市場に参入しようとした時、大きく失敗した。投資額は充分あったものの、戦略や従業員の動き方などが中小企業向け新規事業に適応できなかったのである。
  • 経営者が合理的に判断すると、すでに大きな事業となっている既存の事業の深化に過剰投資し、次のイノベーションの探索に投資をしないという結果になる。仮に経営者が予算配分をしても事業部長クラスが変えてしまうこともある。 
 
 
amazonの創業者、ジェフ・ベゾスCEOを始め、見事に両立させている例も紹介されています。
ジェフベゾスがアマゾンの戦略を語る際、『企業はスキルを重視する。新しい分野に事業を広げようとする際に最初に考えるのは、自分たちのコアコンピタンスに関連するのか、と言う点である。こうなると企業の寿命は有限になる。世の中は変わっていくため、かつての最先端スキルはすぐに顧客に不要になるからだ。それよりも、自社の顧客には何が必要か、から始まる戦略の方がはるかに安定している。その後足りないスキルを自社に補っていくのである』
 

 

もちろん、困難な状況を巧みに切り抜け、時間とともに進化を遂げた企業もある。
  • 260年前に炭鉱業から始まったGKNは、今では年商90億ドルの宇宙航空と自動車の会社になっている。
  • 1886年に滅菌包装製造から始まったジョンソン&ジョンソンは、今や医薬品、医療機器などの製品ポートフォリオを持ったグローバル企業だ
  • 1937年に自動織機メーカーとして設立されたトヨタは、今は自動車メーカーである
  • ノキアは1865年に製紙会社として設立したが、今では通信機器の会社である 

 

探索の成功に成功した例としてUSA todayが取り上げられています。理由は、社長の決意、2つの役割の部門を地理的に分離させたこと、それでも上層部人材を通じて2つをつなぎ合わせていたこと(それがないと、ただの別会社になります)と書かれています。言うは易し、ですが、これは実行と推進が難しいでしょう。
USA todayが紙新聞がまだ成功を収めている内に、オンラインニュース事業を立ち上げ、成功させるときになぜ上手くいったのだろうか。
  • 第一に、社長が新聞ではなくネットワーク企業になる、と言う戦略的意図をはっきりと打ち出し、探索ユニットと、深化ユニットがいずれも同じ組織の一員として協力し合うべきだと言う理由を示したこと。
  • 第二に、組織全体に適用される共通の価値観を示している。
  • 第三に、上級幹部が足並みを揃え新戦略に尽力するよう徹底させ、熱心でない人は熱心な人に交代させた。
  • 第四に、探索と深化の両部門を構造的に、また地理的に分離させつつも、重要な接点としてのマネジメント会議や、運命共同体としての報酬制度を通じて会社全体ではしっかりと統合を図ったこと。(幹部の報酬が決まるのを、自分の部門ではなく会社全体の成果に応じた形に変更)
  • 最後に、社長と探索チームは新組織を推進する勇気を持っていたこと。既存のキャッシュを新しいプロジェクトに回すと言う意思決定は反対を受けたものの、その意見に屈しないと強い意志を持っていた。

 

 
他の事例として、シンガポールのフレクストロニクス社、ヒューレット・パッカード社も取り上げられています。こちらの成功要因もUSA todayと同じポイントでした。トップの覚悟、地理的に話しながらも繋がりは持つこと、です。
シンガポールに拠点を置く電子機器の受託生産をメインにするフレクストロニクスも、次々と新しい事業を成功させている。SAPの事例と対比させてみる。
  • 第一に、SAPは機能的組織の中で新事業をプロジェクトチームとして運営しようとした。フレクストロニクスは、地理的に離れた場所にチームを置いた。
  • 第二に、エレクトロニクスはCEOが新事業の支援をし、この取り組みに反対する人から生じる抵抗に打ち勝てるよう、力添えした。全社として重要であるということが認知されていたので、会社の重要な資産、例えばコーポレートや営業スタッフを含む、にもアクセスすることができた。一方でSAPは階層構造のせいで進捗が妨げられたり、意思決定が遅れたりすることが多く、社内への支援要求アピールに力を割かざるを得なかった。
これらの新規事業が通常のスタートアップに比べて大きな強みを持つ点は、親会社から提供されるデータや顧客へのアクセス、オリジナルのコンテンツや人材だろう。それを活かし、逆にデメリットがないようにしなければならない。 

ヒューレットパッカードが既存のスキャナ事業に対して、ポータブルスキャナ事業を新規に立ち上げる時も同じ苦労があった。市場が異なるため事業のやり方も全く異なっていたのである。

社長のファラシはポータブル事業を仮想スタートアップとしてオマーンに任せることにした。そしてファラシ自身がサポートすることを約束した。オマーンはポータブル事業を築く際にいくつかの重要な意思決定をした。
  • ポータブルチームを地理的に分離させた。
  • 既存の部門から選りすぐりの人材をリクルートしてきた。ちなみにこの時に既存事業と対立が起こり、社長のファラシが対立をなだめた
  • 全社の文化規範とは完全に異なる文化をポータブル事業に奨励した。迅速な意思決定、皆が起業家としてリスクを取る、完璧な製品設計でなくても許容するなどである。
  • 人事関連でも大きな変更を加えた。従来のチームよりもスタートアップのメンバーにより多くのストックオプションや高い給料を与えたかった(が、流石にそれはできなかった)。折り合いをつけるために妥協案として、ポータブル事業のメンバーにはマイルストーンを達成したときに特別ボーナスで報いることにした。 

 

 
IBMを立て直したルイス・ガースナーも新規事業を大きくして柱にするということをしっかりと実行しました。ちなみに、彼の本「巨象も踊る」も名著なので追って取り上げます。
1993年、潰れそうだったIBMにルイスガースナーがCEOとして就任した。外部からの起用は史上初めてであった。IBMには強力な戦略がたくさんあったが、官僚組織で全く実行できていなかった。ガースナーは数年間の間にその実行を行い、事業を安定化したあと、より成長するための方策をスタートした。
それがEBOの取り組みである。新規事業を独立した子会社として立ち上げ、本社がサポートをしながら成長させ、そして巣立たせると言う作戦である。売り上げゼロの新しい会社のトップに、40億ドルの売り上げを持つ事業の責任者を転籍させた。本人は左遷だと思い落胆したが、CEOから直接このプロジェクトがどこまで重要でなぜ君を任命したかということを強く説明した。通常新しいことには、企業文化に染まりきっていない若手を抜擢するものだが、むしろそこにこそ経営経験があるベテランを送り込んだ方が良かったのである。
その事例が成功し、その人が出世したことで、新しい事業を担当する事は素晴らしいとわかり、優秀な人材が多く手を挙げるようになった。

 

ここでのポイントは、既存事業に邪魔をさせないようにしつつも、本社のリソースを活用できるように運営することである。もちろん幹部の積極的なサポートも必須である。
 
これらの事例をもとに、両利きの経営(ambidexterity)をするためには、下記の4つが必要条件になると述べられています。
以上をまとめると、企業が探索と深化の両利きになるためには、4つの要素が必要条件となる。
  1. 探索と深化が必要であることを正当化する明確な戦略的な意図。ここには探索ユニットが競争優位を築くために利用可能な組織能力や資産を明確にすることも含まれる。
  2. 新しいベンチャーの育成と資金供給に経営陣が関与し、監督し、邪魔するものから保護すること
  3. ベンチャーが独自に組織構造面で調整を図れるように、深化型事業(既存事業)から十分な距離を置くとともに、企業内の成熟部門が持つ重要な資産や組織能力を活用するのに必要なインターフェイスを注意深く設計する。これにはどの時点で探索ユニットを打ち切るか、あるいは組織に再編入するかに関する明確な判断基準も含まれる。
  4. 探索ユニットや深化ユニットにまたがって共通のアイデンティティをもたらすビジョン、価値観、文化。これにより全員が同じチームの仲間であるという意識を持つことに役立つ。一方で、一貫して矛盾すると言うリーダーシップの行動を実践する。
    例えば、あるユニットには利益と規律を求めながら、別のユニットには実験を奨励する。

 

 

 

イノベーションのジレンマを頭では理解しながらも、なかなか打ち手が打てないという状況の経営者にとって、一つの教科書になるといえるのではないかという理論、及び本だと感じました。しっかり覚えておきます。

 

 

 
以下、おまけとして日経ビジネスオライリー教授の連載記事より。
経営する領域により、風呂敷の中身を変える必要がある。それぞれの領域ごとに違ったものがある。
大切なのは、4つの場所それぞれに最適な組み合わせが違うということだ。風呂敷を包むとき、巧みに中身を見直すことが大変重要なのである」